- ACTIVITY & TRIALS 2018
医療法人社団悠翔会 2018年活動報告
To Creating a Better Future
よりよい未来を創るために
私たちは今年も診療外の活動に積極的に取り組みました。
それらは、私たちの視野を拡げ、つながりを拡げ、より豊かな未来への可能性を拡げるための戦略的な投資でもあります。
2018年は、特に海外視察や人材交流、情報発信、被災地支援などを中心に取り組んできました。その中で、わたしたちの未来を担う人財の育成と、そして法人としての長期的な運営戦略の立案のためのヒントを得ることができました。
保険医療の枠を超えた活動は、さまざまなメディアで取り上げられ、国内外の団体から表彰や認証を受けることもできました。また、そこから新たなつながりを得ることもできました。
ここでは私たちの2018年の活動の一端をご紹介いたします。
(写真は2018年度 業績報告会の様子)
1.海外視察・海外交流
海外視察は、私たちの「あたりまえ」を疑うための重要な機会です。
医療保険・介護保険の制約の中で仕事をしていると、いつしか、医療や介護を提供することが自分たちの仕事であるかのように勘違いしてしまう危険があります。医療や介護は私たちの仕事の「手段」にすぎません。私たちの仕事は、目の前のその人を幸せにすること。在宅医療においては、その人やご家族に「安心できる生活」「納得できる人生」を提供することです。
私たちは、医療保険と介護保険だけで生きていくことはできません。しかし、医療保険や介護保険がなくても、幸せに生きていくことはできます。
また、日本よりも進んだ国から学ぶことはたくさんありますが、日本ほど制度の発達していない国からも学ぶべきことはたくさんあります。
私たちは積極的に海外の現場を訪問し、意識をリセットしていきたいと考えています。
北京
Beijing, China
2018/02/04-02/06
中華人民共和国 国務院が主催するForeign Expert Consultation Symposiumにて、医療法人社団悠翔会の佐々木淳理事長が高齢社会および医療介護分野の専門家として招聘され、国務院関係者に対するプレゼンテーションおよび人民大会堂で行われたディスカッションにて李克強首相らと意見交換を行いました。
また、その後、中国政府のシンクタンク、中国国務院発展研究基金にて、日本エンドオブライフケア協会の千田さんとともに、日本の高齢者医療、人生の最終段階の支援、地域共生社会のコンセプトについてプレゼンテーションおよび意見交換をさせていただきました。
パリ
Paris, France
2018/03/01-03/05
パリの合理的な救急医療システムおよび往診サービスの視察を目的に、悠翔会から医師2名、経営企画部門1名、システム部門1名、計4名でパリを訪問しました。救命救急指令センターSAMUの運営の実際、救急車両SAMURの運用、救急部門に設置されたSAMU SOCIALという社会的要因に対する対応窓口は、特に高齢者の進む日本の救急医療を考える上で大きなヒントになりました。
また、非営利法人SOS-MEDICINESによる24時間の医師往診サービスネットワークのコールセンターおよび往診状況の視察、また営利法人による「医療版ウーバー」のような仕組みについても視察をすることができました。今後、悠翔会が地域の高齢者に対し提供すべきサービスのイメージを具体化することができました。
上海
Shanghai, China
2018/04/07-04/11
上海で開催された日中認知症ケア実践事例共有フォーラムに参加するため、医療法人社団悠翔会の佐々木淳理事長が、株式会社シルバーウッドの下河原忠道社長、そして映画「ケアニン」のプロデューサー、山国秀幸さんとともに上海を訪問しました。
会場には200人以上の行政担当者、介護事業運営者が中国全土から集まり、日本における認知症に対する文化の変化を共有しました。また、VRによる認知症の一人称体験、「ケアニン」の上映も行われ、上海では認知症に対する認識に一石を投じたと現地メディアからは評価されました。
その後、上海市内の複数の介護施設や地域コミュニティ拠点の視察をさせていただきました。まだ介護保険制度の完成していない中国ですが、都市部においては、先行して試験的な取り組みが始まっていました。そして、日本とは異なり、保険に依存しない介護ビジネスの発展を目の当たりにしました。
ヤンゴン
Yangon, Myanmar
2018/04/26-04/28
佐々木淳と管理栄養士の林裕子が、ミャンマーの首都、ヤンゴンを訪問しました。ミャンマーは世界の最貧国の1つ。平均寿命は60歳台と低く、また国民の所得格差も大きな国です。ミャンマー国民の死因は、高所得者層は動脈硬化性疾患、低所得者層は下気道感染症と大きく分かれており、いずれのグループにおいても栄養状態の改善は喫緊の課題です。
今回は機会をいただき、ミャンマーの国民生活の実際および現地の病院等を視察することができました。
今後、ミャンマーの食生活の改善に何らかの形で貢献できればと考えています。
シンガポール
Singapore
2018/05/14-05/16
今年で三度目の参加となるAgeing Asia Innovation Forumに、悠翔会の訪問歯科診療部の若杉葉子歯科医師と、経営企画室の鈴木希望とともに参加してきました。
悠翔会の医科歯科連携・栄養連携に基づく訪問歯科診療の取り組みを世界に紹介するのが今回のシンガポール訪問の目的です。
今回は、フォーラムに合わせて開催されるAsia Pacific Eldercare Innovation AwardにBest Home Care Operatorとして若杉歯科医師がファイナリストに選出されており、現地でプレゼンテーションを行いました。
残念ながらグランプリを獲得することはできませんでしたが、国海外の政策関係者・経営者・専門職とのネットワークを得ることができました。
来年以降もチャンスがあればチャレンジしていきたいと思います。
写真はSOMPOケアの奥村会長と遠藤社長とともに。上海・南京
Shanghai, Nanjing, China
2018/06/14-06/18
日中福祉プランニングの王青さんにお声がけいただき、上海・南京の医療介護福祉視察ツアーにアテンドさせていただきました。4名の医師の他、多数の多職種が参加。上海・南京という2つの大都市の病院・介護施設・地域拠点等を視察するとともに、現地の政府関係者および事業運営者と意見交換を行いました。
このような視察ツアーでは、現地視察した後、参加者間の交流により、さらに学びを深めることができます。
非常に有意義な5日間となりました。
デルフト・ハーグ・アムステルダム
Netherlands
2018/05/24-06/01
オランダは世界で初めて、介護保険を開始し、同性婚や安楽死を認めた国。先進的で合理的なオランダの制度の中に、日本とは定義の異なる自己責任と平等という2つの言葉を学びました。
複数の高齢者介護施設、高齢者住宅、病院、大学、認知症疾患治療センター、緩和ケア病棟(ホスピス)、安楽死に携わる医師、そしてケアファーム。さまざまな現場の中から、高齢者医療やケアに通ずる普遍的な原則を見つけました。
また、法人として取り組みを計画している農福連携について、重要な知見を得ることができました。
このツアーでは、全国から学識経験者や意識の高い多職種、そしてジャーナリストらが参加しており、主催の浅川澄一さんの事前学習資料などから短期間ながら非常に有益な学びの場となりました。
台中・新北
Taichung, New Taipei City Taiwan
2018/07/03-07/06
中山醫学大学(台中市)および新北市政府より招聘され、佐々木淳理事長と荒木理MSWが台湾を訪問しました。また、この訪問には診療支援部および看護部からも1名ずつ悠翔会のメンバーが同行しました。
中山醫学大学では、佐々木と荒木よりそれぞれ1時間ずつ講演した後、医学部の教員や学生たちとワークショップを行いました。超高齢社会をどう解釈するか、というもので、多数の意見の中から、やさしさや科学技術に関する項目が多数上がったのが印象的でした。
新北市政府では、超高齢社会と地域共生社会をテーマに、ここでも佐々木と荒木が1時間ずつ講演しました。新北市の朱立倫市長や新北市の医師会・歯科医師会・薬剤師会・看護協会のトップとも意見交換をさせていただきました。
ジョクジャカルタ
Jogjakarta, Indonesia
2018/08/27-08/31
インドネシア国立ガジャ・マダ大学歯学部より招聘され、佐々木淳理事長が、大学教員向けに老年歯学部の設立記念講演、翌日には学生向けの特別講義を行いました。
おつなぎくださった東京医科歯科大学歯学部名誉教授の江藤一洋に感謝申し上げます。
インドネシアの高齢化率は5%程度ですが、人口は将来的に3億人に達すると予想されており、その絶対数は少なくありません。今後、急速に進む高齢化に向けて、老年歯科の学部がインドネシア国内で初めて設置されました。
口腔機能ケア・栄養ケアの重要性はすでに明らかになってきています。インドネシアは、今後、十分な準備をもって高齢化に取り組むことができるかもしれません。
北京
Beijing, China
2018/10/14-10/16
中国・清華大学より招聘され、佐々木淳理事長が北京を訪問しました。
Inclusion and Diversity: International Conference on Accessibility Development 社会的包摂と多様性がメインテーマの国際会議にて、「コミュニティケアの未来」というテーマで講演させていただきました。
中国は障害者大国でもあります。全盲の視覚障害者だけで一千万人。高齢化も凄まじいスピード+ボリュームで進行しています。
障害者や高齢者が当たり前に地域で生活を継続できる社会をどう実現するのかを議論するため、社会学、財政、金融、建築、都市計画、情報工学、ロボティクス、ツーリズム、NPOなど様々な分野の専門家が招聘されていました。オープニングセレモニーで、ユネスコの中国代表Marielza Oliveira氏が、SDGs、国連開発計画と障害者・高齢者に対する具体的取り組みについて、テクノロジーの活用に加えて、個々人の当事者意識の重要性を何度も何度も強調していたのが印象的でした。
障害者ケアの領域は、日本よりも中国のほうが社会実装が進んでいるかもしれません。
シンガポール
Singapore
2018/10/17-10/21
シンガポールで開催されたJSIP : Japan Singapore Inter-Professional Collaborating Symposiumと、それに付随するシンガポール医療介護視察ツアーに、佐々木淳理事長と、悠翔会在宅クリニック川崎の宮原光興院長が参加しました。
これはシンガポールで臨床医として活躍する日本プライマリケア連合学会の佐藤健一先生が、日本とシンガポールの橋渡しのため、毎年開催されているイベントです。
JSIPでは、佐々木がヘルステックをテーマに講演をさせていただきました。視察ツアーでは、日本とは異なる積立方式の健康保険、合理的な医療保険の仕組み、病院の機能分担、コミュニティとのseamlessな連携、そして核シェルターなど非常時への堅牢な備え。さまざまな面での日本との意識の違いをまざまざと見せつけられました。
日本・シンガポールの両国の厚労省や、日本のヘルステックベンチャーなどのスタートアップ経営者、そしてシンガポール総合病院グループ(SingHealth)の経営陣など、人的ネットワークも大きく広がりました。
トッドモーデン
Todmorden, UK
2018/11/04-11/05
世界に広がる”Incredible Edible"の取り組みを学ぶべく、トッドモーデンを訪問しました。
街中のいたるところに野菜や果物、ハーブを植えたガーデンやコンテナが配され、誰でも自由に食べていい。ガーデンを結ぶ緑あふれる散歩道は、「ベジタブル・ツーリング」を楽しむ人たちを街の外から呼び込む。そこで摂れたオーガニックの野菜を使ったカフェやクラフトビール、そして地元の野菜だけで育った肉やチーズなど、「半径5マイルの自給生活」も可能になりつつありました。この取り組みの素晴らしいのは、野菜を育てることを目的としていないこと。野菜を育てることで、地域のコミュニティが育つ。それがこの "Incredible Edible"のポイントだと感じました。
悠翔会も東京郊外においてケアファームを計画していますが、ここで学んだことを生かしていきたいと思います。
ロンドン
London, UK
2018/11/06-11/10高齢者住宅新聞社が主催する英国医療介護視察ツアー。佐々木淳理事長が団長(コーディネータ)を務め、悠翔会からも渡辺美恵子看護部長および大西由起リーダーの2名が参加しました。
ツアーには日本や英国で地域医療に携わる医師たち、そして看護師やソーシャルワーカーなど意識の高いさまざまな多職種が参加しました。AgeUKなどのチャリティ団体、英国の家庭医グループ、NHSのコミュニティホスピタルや急性期病院、介護施設、高齢者住宅、マギーズセンター、ホスピスなどさまざまなサイトを視察するとともに、それぞれの場所で意見交換をすることができました。
特に、急性期病院から在宅へのアウトリーチ、ホスピスから在宅へのアウトリーチなど、とにかく「在宅が基本」「運悪く在宅での療養継続ができない人だけ病院(ホスピス・施設)へ」というのが英国の基本的スタンス。そしてそれを支える地域医療の仕組みが充実していることを学びました。
ゲートキーパーとしての家庭医の役割が非常に大きく、医療ニーズの90%以上に対応しているということを学びました。また、医療提供体制が地域ごとに管理され、診療行為に対しても標準化が行われていること、電子カルテシステムを通じて、診療のクオリティが適切にコントロールされていることも非常に合理的であると感じました(悠翔会の電子カルテシステムは、実は英国の家庭医の電子カルテシステムを参考にしています)。
また、看護師が主体性をもって活躍しているのも印象的でした。悠翔会においても、次期計画では、看護部の役割拡大を計画しています。そのための具体的なイメージをつかむことができる貴重な機会となりました。
台南・台北
Tainan, Taipei Taiwan
2018/12/22-12/27
台南有数の医療グループ・奇美醫院および臺北醫学大学(台北医学大学)より招聘され、佐々木淳理事長が、株式会社おあいけあの加藤忠相社長・株式会社シルバーウッドの下河原社長とともに台湾を訪問しました。
奇美醫院では、佐々木・加藤氏より90分ずつの講演と、下河原氏によるVR認知症体験が行われました。台南のみならず台北や台東からも多くの医療介護関係者が集まりました。同時に、台南の高齢者施設の見学をさせていただきました。人生の最終段階において、多くの方が経鼻経管栄養になるという実情を教えていただきました。
臺北醫学大学では、主に大学教員および看護系団体のトップを対象に、地域共生社会と生活モデルの医療のコンセプトについて、佐々木および加藤氏より90分ずつの講演および下河原氏による認知症の講演およびVRによる認知症の一人称体験が行われました。台湾の看護協会、ケア学会の理事長も参加され、活発な意見交換も行われました。
台湾医師会の副会長や、台湾で在宅医療に従事する医師たちとも直接交流ができ、きわめて有意義な機会となりました。
2.被災地支援
2018年は繰り返し災害に襲われた1年となりました。
悠翔会は、7月に中国・四国地方を襲った豪雨災害に対し、公式・非公式の支援を行いました。
2018年7月14~15日
佐々木淳理事長が倉敷市・真備地区に入り、キャンナスと連携して現地の被害状況を調査しました。また、現地では断水・停電に加え、酷暑が加わり、脱水症・熱中症の多発が懸念されたため、日本調剤、大塚製薬工場の協力により、現地に3000本のOS1/500mlペットボトルを届けました。
その後、在宅医学会およびクララ(西日本豪雨 倉敷・高梁川流域 医療介護提供体制支援プラットホーム)の養成に基づき、悠翔会の2名のソーシャルワーカー(悠翔会在宅クリニック川崎 木戸昂明・悠翔会在宅クリニック渋谷 荒木理)が現地多職種の後方支援のため現地に入りました。また一部の医師が法人判断とは別に被災地の支援に入っています。
現地での支援を通じて、災害の急性期・亜急性期・慢性期におけるそれぞれの課題が明確に見えてきました。
災害大国日本においては、私たちも必ずいつか被災者になります。
私たちも、災害が発生した際、まずは自分たちと家族の安全を確保するとともに、在宅医療のインフラを維持し続けるために、具体的な行動計画を立てる必要があります。
特に悠翔会が法人本部を置く港区新橋は、荒川の決壊や大震災等の大災害時には非常に脆弱な地域であると指摘されています。また、北千住や金町など、いくつかのクリニックは、火災・家屋倒壊・浸水の危険地域に立地しています。
そこで、2019年中にクリニック単位および法人全体のBCPを立案し、その具体的な準備作業に入る予定です。
在宅患者の安心・安全を守り、地域の医療インフラをいち早く復旧・復興するために、被害を最小限に抑えるとともに、物理的な往診以外の支援方法の確立を進めていきたいと考えています。
3.情報発信
在宅医療や生活モデル(ICF)のコンセプト、自立支援についてなど、2018年は朝日新聞やNHK、一般週刊誌など主要なマスメディアで私たちの考え方や取り組みを紹介していただく機会を得ることができました。
同時に、企業や自治体、行政機関に対する情報発信や意見交換の機会をいただく機会も増えました。
すでに到来している超超高齢社会を、より豊かなものにしていくために、現場から情報発信していくことは非常に重要であると考えます。
いただいた機会を大切に、しっかりと超超高齢社会の最前線の情報を伝えていきたいと思っています。
2018年08月01日
茨城県議会にて講演
10人の県議で構成される保健福祉医療委員会は「安心できる地域医療の充実」をテーマに、地域医療連携の推進、在宅色湯の充実、医療人材の確保対策などに取り組まれています。ここで「在宅医療の充実について」というテーマで、質疑を含め90分間お話をさせていただきました。
人口あたりの医師数が全国平均より25%も少ない茨城県。地域の医療介護の体制づくりは大きな課題です。介護の社会化するための介護保険という仕組みがある中で、家族介護に依存している地域があるという現状も教えていただきました。質疑を通じて、悠翔会の診療フィールドと、茨城県の違いを感じつつ高齢化に最適化した地域医療のあり方、在宅医を増やすための工夫、医療介護連携をスムーズに進めるための取り組みなどをお伝えしてきました。
2018年10月04日
小池百合子都知事と意見交換
都民ファーストの会の後藤奈美都議会議員におつなぎいただき、株式会社あおいけあの加藤忠相社長、株式会社シルバーウッドの下河原忠道社長、KAIGO LEADERSの秋本可愛さんらとともに、東京都知事の小池百合子氏と直接意見交換の場をいただきました。
佐々木からは、高齢者の救急搬送が増加していること、それにより救急現場が疲弊しつつあることをお伝えし、在宅医療と救急の連携による高齢者の在宅での予防的ケア、社会的ニーズからの救急搬送を削減するための取り組みの提案をさせていただきました。
その他、複数の基礎自治体や東京都医師会はじめ都道府県医師会、地区医師会等より24時間対応の仕組みづくり等について意見交換の場をいただきました。
在宅医療専門クリニックと地域のかかりつけ医の連携は極めて重要な課題であると改めて認識しました。今後、地域の課題解決により積極的に取り組んでいこうと考えています。
なお、一般的な講演やメディア出演、執筆・出版物等については「メディア関連情報」(準備中)、在宅医療カレッジに関するものについては「在宅医療カレッジ」をご参照ください。
4.人材交流
2018年は国内外から多数の視察や見学をお受入れしました。特に今年はアジア地域からの視察が多く、高齢化という課題をアジア全体が共有していることを強く感じました。
悠翔会の訪問診療や訪問歯科診療、訪問栄養指導、そしてチームマネジメントや24時間対応の診診連携の仕組みなどに関心をもって訪問して下さる方も増えました。
2018年は、こちらでは詳細をご紹介していませんが、17医療機関から21人の医師、6人の看護師、3人の管理栄養士を始め、歯科医師、歯科衛生士、理学療法士、言語聴覚士など、さまざまな専門職の診療同行や見学をお受入れしました。
また、今年は悠翔会の各メンバーが、国内の先進地を視察しました。さまざまな事業体が、さまざまな形で地域に密着したケアを提供しており、悠翔会の今後の運営を考える上でも多くのヒントをいただいています。
法人外の方との交流は、自分たちの在宅医療を客観視するための貴重なチャンスでもあります。
引き続き、積極的に交流をしていきたいと思います。
主な海外からの視察・見学受け入れ
2018年02月28日
GE Healthcare
Global General ManagerであるMr. Rob Watsonをお迎えし、日本の在宅医療の現場におけるポータブル超音波検査装置の活用状況と、今後の開発の方向性に関して意見交換を行いました。
2018年05月21日~06月01日
奇美醫院(台南市・台湾)
台南市の大規模医療グループ奇美醫院より老年病科医長のDr. 蔡岡廷をお迎えし、2週間にわたり訪問診療の同行、院内会議への同席、組織運営についての紹介などを行いました。
2018年06月12日
中国発展研究基金
中国政府系シンクタンクである中国発展研究基金より、10名の制作研究者をお迎えし、日本の在宅医療・高齢者医療の仕組みに関する院内講演および診療同行見学を行いました。
2018年07月27日
朝鮮日報
韓国で活躍する医療ジャーナリストであるDr. 金哲中をお迎えし、訪問診療への同行取材及び在宅医療・高齢者医療に関する意見交換を行いました。
2018年08月06日
GE Healthcare
Global Product Manager Dr. Steffen Mueller氏をお迎えし、ポータブル超音波検査装置の在宅医療における利用状況をご紹介するとともに、今後の在宅医療・プライマリケア領域における小型医療機器の開発に関する意見交換を行いました。
2018年08月06日
奇美醫院(台南市・台湾)
台南市の大規模医療グループ奇美醫院より、院長・副院長・看護部長など多くの管理職が悠翔会を訪問されました。日本の在宅医療の仕組みやコミュニティケアのコンセプト、患者情報共有システム(電子カルテシステムHOMIS)をご紹介するとともに、台南での在宅医療の開始にあたり、意見交換を行いました。
2018年11月22日
ソウル国立大学病院 家庭医療科
家庭医および医療ソーシャルワーカーの視察を受け入れ、訪問診療への同行見学および日本の在宅医療・高齢者医療に関するブリーフィングを行いました。
2018年12月05日
中国国務院発展研究中心
候永志氏(発展戦略/区域経済研究部部長)、葛延風氏(社会発展研究部部長)、肖慶文氏(中国発展研究基金会副秘書長)をお迎えし、日本の在宅医療・高齢者医療の仕組みと地域共生社会に関する院内講演および意見交換を行いました。
主な日本国内での視察・見学
2018年03月12日
ものがたり診療所(砺波市)
悠翔会の在宅医療にもっとも大きな影響を与えた、佐々木にとっての在宅医療の師、佐藤伸彦先生の運営するものがたり診療所を訪問しました。
佐藤先生の目線の先には、地域の未来がありました。医師の少ない地域において、住民が安心して暮らし続けられるコミュニティをいかにつくっていくか。在宅医療と「すまい」を基軸としたナラティブホームの試み、古民家を活用した拠点づくり、そして「ものがたり」のコンセプト。
これからも引き続き学ばせていただきたいと思っています。
2018年03月23日
医療法人ゆうの森(松山市)
日本の在宅医療のパイオニアの一人、たんぽぽ先生こと永井先生の運営する地域医療機関。在宅総合診療、有床診療所の運営、栄養ケアへの取り組み、そして僻地診療所の再生。有床診療所や外来部門の立ち上げを計画している悠翔会にとっては、まさにお手本のような在宅医療機関です。有床診療所である悠翔会くらしケアクリニック練馬のスタッフおよび有床診療所の可能性を模索している悠翔会在宅クリニック柏のメンバーで訪問させていただきました。
永井先生は、確固たる理念を発信され、合理的な経営と人財マネジメントで、クリニックを成長させてきました。そのチーム力・実行力を学ばせていただきました。
2018年03月28日
ポラリスデイサービス(宝塚市)
「自立支援介護」を標榜し、現在の医療システムでは十分にカバーされていない廃用症候群に対する慢性期リハビリテーションを、医療ではなく介護の領域で実行してしまったポラリスデイサービスの森社長を訪ねました。免荷装置を使った安全なリハビリ環境、運動学習理論に基づく合理的な介入、十分な栄養と水分の確保、そして本人の意欲。廃用症候群からの卒業生を多く出す、実績と実力のある介護事業であると感じました。
2018年04月24日~25日
社会福祉法人佛子園(輪島市・金沢市)
雄谷良成理事長率いる社会福祉法人佛子園が石川県を中心に展開しているコミュニティを見学させていただきました。輪島カブーレは、過疎化の進む輪島市の中心市街の空き家を活用し、古い街並みを残しながら、コミュニティの機能を再活性化する仕掛けがありました。シェア金沢は、刑務所の隣接地という条件の悪い土地に、さまざまな人たちが心地よく集い合え、そして住まうことができる空間が出来上がっていました。そして、かつて地域の中心にあったお寺をコアに住民が再び集うコミュニティの再構築もいくつも進められていました。共通するキーワードは「ごちゃまぜ」。高齢者も、障害者も、子供も大人も、みんなが心地よく過ごせて、誰も排除されない、そして誰もが機能するコミュニティ。
超高齢社会日本が進むべき1つの方向性を確認することができました。
2018年04月25日
元ちゃんハウス(金沢市)
在宅医療カレッジでもご講義いただいた故・西村元一先生が創設された「がんとむきあう会」が運営するコミュニティスペース。
マギーズセンターのコンセプトと同様、心地よいインテリアと穏やかな雰囲気の中で、がんの患者さんが「自分に戻れる場所」を提供している。
がんの患者さんが、「患者さん」ではない自分でいられること。在宅医療においても非常に重要なコンセプトだと思います。
地域にこのような拠点を増やしていくことも重要な方向性の1つであることを確認できました。私たちも自分たちにできることを考えていきたいと思います。
2018年05月25日
医療法人社団健育会 大泉学園複合施設(練馬区)
酒向正春先生は脳卒中リハビリのエキスパート。リハビリ病院と老健施設を組み合わせた複合施設で「攻めのリハビリ」を展開し、結果を出し続けています。
酒向先生の視線は病院や施設の中だけに留まっていません。病院の外側、街全体を、生活しているだけで健康になれる、そんなコミュニティづくりを目指されています。在宅医療におけるコミュニティケアとの共通点を感じました。悠翔会は練馬に診療所を開設しており、今後、連携を深めていければと願っています。
2018年11月03日
まめネット つながるわっ(島根県)
出雲ではICTが在宅医療の質と業務効率の向上に大きく寄与していました。中山真美先生に出雲でのICTの活用について教えていただきました。
「まめネットつながるわっ!!」は島根県の強力なイニシアチブの下に導入された全県下統一連携カルテ。現在、県内の病院の85%、診療所60%が参加。ここでは地域の専門職間の掲示板や、感染症のデイリーサーベイランスなどのリアルタイムの情報共有の他、関わる患者に関する相互の診療内容が閲覧できます。
さらに、診療情報提供書や介護保険請求のために必要な汎用書類などの文書類を電子データとして作成→送信できる。そのための電子署名システムも。そしてなんと在宅からオンラインで病院受診の予約まで。
首都圏でも各地域で情報共有のためのICTシステムが導入されていますが、実際にここまで活用されているケースは初めて見ました。
システムへの記録の二重入力など、普及の障壁となっている課題が解決され、システムを利用することで診療の質も生産性も向上することをみんなが実感している。中山先生が「これなしに在宅医療は考えられない」とおっしゃっていたのが印象的でした。
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