COVID-19 Home CARE GUIDE
医療法人社団悠翔会
インフェクションコントロール部門・精神科・緩和ケア科Ver.03 2020/05/02
新型コロナウイルス
在宅療養支援ガイド
新型コロナと在宅医療の使命
まずは敵を知るー新型コロナウイルス総論ー
経営
- 新型コロナと在宅医療の使命
POINT
●在宅医療の役割は、
①重症化しやすい高齢者を感染から守ること
②軽症感染者、検査や入院を希望しない感染が疑われる在宅患者の療養支援を担うこと
●在宅医療は、新型コロナとの戦いの最前線。
患者の生命・生活・尊厳、そして地域医療(集中治療キャパシティ)を守ることが在宅医療の使命
●そのためには3つの「防衛線」を意識する。第一防衛線:「生命を守る」自宅や施設に感染症を持ち込まない・拡げないこと/早期診断すること
第二防衛線:「生活を守る」感染した在宅患者を必要に応じて自宅・施設で安全に支援できること
第三防衛線:「尊厳を守る」最期まで生活の場所で過ごしたいという人が、苦痛や不安なく過ごせること
●新型コロナという未知の敵に対する不安は恐怖は当然。
正しい知識とスキルを身に着け、敵を正しく恐れつつ、患者や地域を守ることが私たちの使命。
私たちが敵前逃亡すれば、残された患者・家族・介護者を危険に晒す。
新型コロナに対する在宅医療の使命
在宅医療の使命は、多疾患で脆弱な在宅患者の生命・生活・尊厳を守ることにある。
そして、適切な医学管理(予防、療養支援、意思決定支援、緩和ケア)および家族や多職種との協働を通じて、在宅患者の急変や入院を最小限に抑え、在宅患者のQOL、QODを守るとともに、社会資源の適正利用化(救急医療・高度医療との最適な役割分担)が在宅医療の責任である。
在宅医療こそが新型コロナとの戦いの最前線
在宅患者は新型コロナウイルス感染により重症化・死亡のリスクが高い。在宅医療が感染予防できなければ、そして適切な意思決定支援や必要に応じて緩和医療・看取り援助を提供できなければ、重症化した高齢者は感染病床・集中治療室を占拠し、医療崩壊を招く危険もある。そうなれば、助かる病気の人も助けられなくなる。
すなわち、新型コロナに対する在宅医療のミッションは以下の3つにまとめられる。
①日々の医学管理を通じて、重症化しやすい在宅患者を感染から守ること。
②軽症感染者、検査や入院を希望しない感染が疑われる在宅患者の療養支援を担うこと。
③これにより患者の生命・生活・尊厳、そして地域医療(感染病床・集中治療のキャパシティ)を守ることが在宅医療の使命である。新型コロナに対する3つの防衛線
新型コロナとの戦いの最前線である在宅医療のフィールドにおいては、3つの防衛線を意識することが大切である。
第一防衛線:生命を守る。自宅や施設に感染症を持ち込まない・拡げないこと
▶家族・介護職員に対する感染予防の教育と啓発
第二防衛線:生活を守る。
感染した在宅患者を安全に自宅・施設で支援できること
▶多職種の協働がこれまで以上に重要に
第三防衛線:尊厳を守る。
最期まで生活の場所で過ごしたいという人が、苦痛や不安なく過ごせること
▶意思決定支援と緩和医療の提供体制を確保する
新型コロナ感染症の在宅医療・在宅療養支援に関するガイドライン等
COVID-19在宅医療・介護現場支援 訪問看護事業所向け対応ガイド 2020.05.01
在宅ケアにおける新型コロナウイルス感染対策について(日本在宅ケアアライアンス)2020.04.22
在宅医療における新型コロナウィルス感染症対応 Q&A(在宅医療連合学会)2020.04
新型コロナウイルス感染症 診療所・病院のプライマリ・ケア 初期診療の手引き(プライマリケア連合学会)
新型コロナウイルス感染症に対する感染管理(国立感染症研究所)2020年4月27日
新型コロナウイルス感染症外来診療ガイド(日本医師会)2020.04.30新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る自宅療養の実施に関する留意事項(第1版)(厚生労働省) 2020.05.01
新型コロナウイルス感染予防対策 アクションリスト在宅版(新型コロナウイルス対応情報を発信する会)2020.05.26
新型コロナウイルス感染症に対する臨床対応の考え方(日本感染症学会・日本環境感染学会)
- まずは敵を知る
新型コロナウイルス総論POINT
●敵を正しく知ることが最も大切。
▼
●人類が初めて出会うウイルス。誰も抗体を持たず、ワクチンも治療薬もない。●潜伏期間が長く、無症状の人からも感染する。
●有症状感染者の20%が重症化、5%が人工呼吸器、2%が死亡する。
●高齢者・基礎疾患のある患者は重症化・死亡しやすい。
●爆発的感染拡大により、集中治療のキャパシティを超え、医療崩壊が起こる危険がある。
●日々情報はアップデートされている。信頼できる情報源とつながっていること。
※フェイスブックにアカウントを持つ職員は、「在宅医療カレッジ」をフォローしてください。
新型コロナウイルス
SARS-CoV-2
コロナウイルスは通常、風邪ウイルスの一種として知られているが、新型コロナウイルス:SARS-CoV-2(以下、新型コロナ)は7番目のコロナウイルス。
発熱と呼吸器症状がメインで、インフルエンザよりも感染力も死亡率も高い。人類がこれまで遭遇したことのない新しいウイルスであるため、抗体についてはまだ十分にわかっておらず、ワクチンや治療薬もまだない。従って、急速に感染拡大するとともに、各国で医療崩壊を引き起こし、多数の死亡者が発生している。
日本でも本格的な感染拡大が始まっている。今後、在宅医療に取り組む私たちも現場で新型コロナの予防・診断・療養支援・意思決定支援・緩和医療・看取りなどに関わる可能性がある。
まずは新型コロナという「敵」をよく知り、正しく恐れ、正しく対処できるようにならなければならない。
本ガイドラインは随時更新していく。
医療法人社団悠翔会で運用することを前提として作成している。
新型コロナは無症状でも感染する。
インフルエンザ感染症は、多くは感染から2日程度で発症する。症状が出れば自己隔離となるため、周囲に感染させる危険はさほど大きくはない。
しかし、新型コロナ感染症は、感染から発症までの期間(潜伏期間)が4日から13日前後と非常に長い。特に発症前3日から発症日まで感染力が強いことが知られている。症状が出てからの隔離だと、実は感染防御としては間に合わない。
慶応大学病院は、新型コロナとは関係なく入院・手術が予定された患者についてPCR検査を実施したところ約6%で陽性であったと報告している。このような無症状の患者が院内や施設内で感染を拡大する要因になっている可能性がある。
従って、目の前の患者、あるいは一緒に仕事をしている同僚や多職種が感染していたとしても、互いに濃厚接触にならない、感染しないような関りの工夫が求められる。
感染すると、2割が重症化する。
感染しても全員が症状が出るわけではない。(無症状の集団がどの程度いるのか、現段階ではまだ明らかではないが、50%を超える可能性もある)
症状がでる患者のうち、80%は軽症(呼吸困難を伴わず、入院治療が必要ない状態)で経過し、1週間程度で治癒する。しかし、20%が重症化し酸素吸入などが必要な状態となる。5%は人工呼吸器、さらに一部はECMOが必要となり、人工呼吸器装着となると、高齢者や基礎疾患のある人、喫煙者などの予後はかなり厳しくなる。
在宅患者は死亡リスクが特に高い。
高齢者、基礎疾患のある人(心臓疾患・呼吸器疾患・糖尿病・高血圧・がん・喫煙者など)は重症化率・死亡率が高いことが知られている。
中国CDCの報告によれば、80歳以上の高齢者の死亡率は14.8%となっている。在宅高齢者はさらに複数の基礎疾患を持ち、低栄養・サルコペニア・多臓器の機能低下などの背景要因を考えると、感染すると重症化率・死亡率ともに非常に高くなると思われる。また、介護施設で感染が発生した場合、一気にアウトブレイクする危険がある。実際、ヨーロッパや米国では、死亡者の約20%が介護施設の入居者となっている。
在宅患者の多くは自宅や施設で隔離された生活をしており、感染リスクそのものは高くない。しかし、無症状の家族や介護専門職が感染を持ち込む可能性はある。
自宅や施設を安全地帯として維持するためには、家族や介護職の感染を防ぐことが最も重要であり、これが、対コロナ線の第一防衛線である。適切な医学管理を通じて、家族・介護職員への教育・啓発および必要な資材の提供(または共同調達)を進める。
爆発的感染拡大の危険がある。
誰も抗体を持たない未知のウィルス、ワクチンも治療薬もない上に、無症状でも感染する。このような状況から、感染が爆発的に拡大する危険がある。
感染者が急増すれば、医療機関のキャパシティを超える。
感染病床のキャパシティを超えれば、感染者は病院以外の宿泊施設や自宅等で隔離をする必要がある。集中治療室のキャパシティを超えれば、重症化したコロナ患者の救命治療が不可能になるばかりか、本来であれば救命可能であった虚血性心疾患や脳血管障害等の患者に対応できなくなる。
新型コロナ感染が拡大したニューヨークでは心筋梗塞の入院が3割から4割減少、かわりに自宅または搬送中に死亡し、病院に到達せずに検死にまわり心臓死と診断された症例が4倍に上昇した。これが医療崩壊だ。これは何としても防がなければならない。
新型コロナ感染症に関するわかりやすい説明資料
新型コロナウイルスのNOW!(武藤義和)2020.04.26
新型コロナウイルス感染を乗り越えるための説明書(玉井道裕)2020.04.19
新型コロナウイルス感染を乗り越えるための説明書ー働く人々編ー(玉井道裕)2020.05.01高齢者のための新型コロナウイルス感染症ハンドブック(国立長寿医療研究センター)
コロナウイルスとは何か & あなたは何をすべきか(動画)
コロナ感染から身を守る方法(眞鍋 葉子)(ノート)20分で大ざっぱに分かる新型コロナウイルス(日本ウイルス学会)2020.04.10
日本在宅ケアアライアンス 新型コロナウイルス関連情報(日本在宅ケアアライアンス)
新型コロナ感染症に関するリンク集
新型コロナウイルス感染症に関する情報(EM Alliancce)
新型コロナウイルス感染症 病院・診療所におけるプライマリケアのための情報サイト(プライマリケア連合学会)
新型コロナウイルス感染症に対する感染管理(国立感染症研究所)
新型コロナウイルス特設サイト(NHK)
山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信(山中伸弥)
米国CDC COVID-19に関するウェブサイト(英語)Coronavirus (COVID-19) CDC英国NHS COVID-19に関するウェブサイト(英語)Coronavirus (COVID-19) Latest guidance about COVID-19 from NHS Scotland and the Scottish Government, including social distancing and stay at home advice. NHS
- 第一防衛線:「生命を守る」①感染予防
●第一防衛線その①は、新型コロナに在宅患者を感染させないこと。
●脆弱な在宅高齢者が感染すれば、重症化のリスクが高い。重症化すれば、ほぼ救命できない。
●早期発見・早期治療というこれまでの常識は通用しない。感染防御に最大限の努力を行う。
●在宅患者は外出できない。感染するとすれば、外部からの持ち込みと自宅・施設内での拡散。
●自宅や施設に持ち込まない・拡散しないことを目指す。
●そのためには、新型コロナの感染ルートを十分に理解し、自分(および自分たちの家族)・患者家族・関わる多職種が、①日常生活において感染しないこと、②診療・ケア業務において感染しないことが重要。
新型コロナの感染経路
新型コロナウイルスの感染ルートは3つ。
それぞれの感染経路が明確になってきているので、それに応じた最適な感染防御を行うことで、感染リスクを大幅に下げることができる。
①飛沫感染
感染者が咳やくしゃみをすることで、唾液や鼻水等の体液が飛沫として体外に飛散され、それを吸引することで感染する。飛沫は感染者の半径約1m以内にゆっくりと空気中を落下、通常は1分以内に落下または乾燥する。
▶飛沫は通常、マスクを装着することで、飛散を防ぐことができる。一般には感染者側が装着することに意味があるとされるが、新型コロナに関しては、非感染者側も装着したほうがよいと考えられつつある。
②接触感染
手についたウイルスを含む体液(付着した飛沫や便などの)が、手洗いや手指消毒をする前に顔を触ることによって目鼻口から侵入する。
▶ケアの前後、自宅やオフィス、車内などの清潔領域(感染症を持ち込まないグリーンゾーン)に入る前、食事や顔を触る前などには必ず手洗いまたはアルコール手指消毒を行うことが重要。
▶よく手が触れるところもきちんと清掃しておく必要がある。特にドアノブやテーブルトップ、PCやスマホ画面なども注意が必要である。
▶感染者を診察する場合、ベッド柵や衣服、リネン類にウイルスが付着している可能性がある。手以外の場所が上記に触れる可能性がある場合には、ガウンまたはエプロンを着用するのが安全。また、体液に触れる可能性がある場合にはグローブを着用する。グローブを着用せずに予期せずに体液に触れた場合には、すぐに手を洗う(または十分なアルコール手指消毒を行う)。
▶床に飛散したウイルスが靴底を経由して拡散するという報告もあるが、靴底を直接触る機会はほとんどなく、床を触った後にきちんと手洗い・アルコール手指消毒をすれば問題ないと思われる。
③エアロゾル感染
喀痰吸引・PCR検査検体採取などの医療処置、または飛沫の乾燥等により生じる。通常のサージカルマスクを通過するサイズであることから何となく恐れられているが、新型コロナは乾燥抵抗性が弱く、エアロゾル中で短時間に感染力を失うと考えられている。
至近距離(1メートル以内)で咳嗽などの上気道症状のある感染者を診察する、感染者に対しエアロゾル発生処置等する、などをでない限りは感染リスクとしては重視しなくてもよい。
飛沫よりも落下速度は遅く、10分以上室内に浮遊することがある。十分な換気をすることによって、発生したエアロゾルの濃度を低下させ、感染リスクを大幅に軽減できる。
▶どうしても至近距離での診察や処置が避けられない場合には、原則としてN95またはKN95マスクを装着する。ただし、N95(KN95)は安定供給が難しい。もし、確保が困難な場合には、①十分な換気を行い、②サージカルマスクの上から、③顔面全体を覆うフェイスガードを装着し、できるだけ短時間で処置を行う。
▶また、大きな声で会話をしているとエアロゾルが発生し、三密×長時間などの悪条件が重なると、そこから感染する可能性はゼロではないともされる。危険な環境を避けることが最も重要である。POINT
□感染経路は3つ。飛沫・接触・エアロゾル。
□飛沫・接触はユニバーサルプリコーションで防げる。
□エアロゾルには原則としてN95・KN95で対応。それ以外はサージカルマスク+アルファで対応できる。
CHECK LIST
□マスク(診療現場ではサージカルマスク)を装着する。
□換気をする(1時間に10分程度・診療中は可能であれば常時)。
□顔面を触る前に必ず手洗いまたはアルコール手指消毒を行う。
□よく手が触れるところは頻回に清掃する。
□十分な換気を行う
□エアロゾル発生手技を避けられない場合にはN95またはKN95マスクを使用する。※N95またはKN95マスクは安定供給が困難であることから、複数回使用を前提に丁寧に取り扱う。
自分たちが感染しない・させない
在宅患者は自宅や施設に隔離された状態にある。
在宅患者を感染から守る上で、最も重要なのは外部から感染を持ち込まないことである。そのためには、自分たち(および家族などの同居者)が感染しないこと、そして患者とともに暮らす家族、患者を支援する他の医療介護専門職を感染から守ることが重要になる。
そのためには、
①日常生活で「三密」を絶対に避けること②ケアの現場で感染しない・感染拡大させないこと
③体調不良時は必ず休むこと
この3つを徹底する必要がある。
第一防衛線は、私たちだけでは守れない。
私たち自身のみならず、家族や関わる医療介護専門職についても同様に徹底し、誰もが最適な感染予防・現場対応ができるチームを作らなければならない。
これは医学総合管理を担う在宅医療の重要な仕事である。教育啓発資料等を活用し、確実に行わなければならない。
日常生活における感染防御
密閉・密集・密接を避ける
三密とは「換気の悪い密閉空間」「多数が集まる密集場所」「間近で会話や発声する密接場面」のこと。この3つが重なる場所は新型コロナ感染のリスクが非常に高い。
日常生活で外出等をする場合には、この三密が重なるところを絶対に避けること。できればこの中の1つでも該当する場所は避けることが望ましい。
1つでも該当する場所に行かねばならないときはマスクを装着し、できるだけ短時間・低頻度で済むように工夫をすること。
とにかく人との接触を減らすこと。これを心掛けることが大切である。外出・運動は安全に
新型コロナとの戦いは長期戦。適切な健康管理・ストレスケアも重要である。外出自粛とあるが、これは人との接触を減らすための手段。もし、人との接触の少ない外出であれば感染のリスクはない。散歩やジョギングなども時間と場所を選べば継続できる。
ただし、集団での運動は避けること。散歩やジョギングをする場合には、前の人(集団)との距離を取るようにすること。移動と伴う運動は自分の後方に飛沫が滞留する。散歩の場合は5m、ジョギングは10m、サイクリングは20mの距離が必要というシミュレーションがある。
診療現場における感染防御
POINT.1
濃厚接触者にならないこと診療業務での感染を防ぐために、標準予防策(ユニバーサルプレコーション)が基本となる。
新型コロナ感染者の半数以上は無症状である。また、症状が出る前の潜伏期間中であっても感染力が確認されている。「目の前の患者が感染者であることが後から判明しても、濃厚接触にならないこと」が、日々の標準予防策の目的である。
左図の4項目を満たすことで、濃厚接触はほぼ避けられる。濃厚接触者の定義
濃厚接触者の定義はもともと4つの要件があったが、そのうちの1つが4月20日付で変更になっている。変更されたのは、期間・距離・時間。「患者がコロナが疑われる症状を示した日の2日前から、患者との距離が1m以内で、マスクなどで口元が覆われていない状態で15分以上会話した人」となる。
上記以外の3要件は以下の通り。
①患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者
②適切な感染防護なしに患者(確定例)を診察、看護若しくは介護していた者③患者(確定例)の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者
詳しくはを新型コロナ専門家有志の会のウェブサイトを参照。
医療施設・医療従事者における濃厚接触の具体的な判断基準を表に示す。いずれも次項に示す「感染防御の実際」に従えば、濃厚接触は避けられることになる。濃厚接触しないための現場での感染防御の実際
A. 症状がない場合の基本4条件
前述の通り、図にも示した以下の4条件を満たしていれば、濃厚接触者になることを避けられる。
①患者・専門職の双方がサージカルマスクを装着していること▶自力でマスクの調達ができない患家もある。患者宅に診療時装着用のサージカルマスクをあらかじめ配置しておくことが望ましい。
②診療の前後で確実に手洗いまたは手指消毒をすること(体液を触る可能性がある場合にはグローブを着用すること、予期せず体液に触れた場合には直後に手洗いまたは手指消毒を行うこと)▶消毒用エタノールを携行するか、患者宅の手洗いを借りることの承諾を得てペーパータオルを携行する。
③ケア前・ケア中にしっかりと換気を行うこと▶あらかじめ患者・家族に説明をしておく。診療到着予定時刻を伝え、換気を開始しておいてもらう。
④診療・ケア中のエアロゾル発生手技をできるだけ避けること▶どうしても喀痰吸引が必要な場合は、必ず換気下で行うとともに、Bを参照する。
B. 症状がある場合の追加4条件
患者に発熱・上気道症状がある場合には、次の4条件を追加する必要がある。
①特に咳嗽がある場合には、サージカルマスクの上からフェイスシールドを装着すること。N95またはKN95が確保できていればそれを使用することが望ましいが、そうでなければ大きめのフェイスシールドで顔面を側方までしっかり覆い、換気を十分に行うことでリスクを軽減できる。
②ガウンまたはエプロンを装着すること。ガウンやエプロンが手配できなければ、雨合羽やゴミ袋等で代用する。
③グローブを装着すること。グローブを装着できなければ直後の十分な手洗い、またはアルコール手指消毒ということになるが、患者が感染している場合、患者自宅の洗面所も必ずしも安全ではない可能性を考慮する必要がある。
④正しい着脱操作を行うこと。特に脱ぐ作業を安全に行う必要がある。着脱手順についてはこちらの資料を参照。手順を細かく覚えるよりも「ウンコ付けないゲーム」と考えるとよい、という提案がある(以下Q3参照)。グローブやガウンに便がついていたと考え、それが手や身体につかないように脱ぐにはどうすればいいのか、考えながら動作すればいいのではないか、というもの。
個人防御具(PPE)の着脱については、職業感染制御研究会のウェブサイトが詳しい。
なお、フットカバーは着脱時に汚染が起こる可能性が指摘されており、推奨されていない。
CHECK LIST
新型コロナ感染を積極的に疑わない場合
□患者・専門職の双方がサージカルマスクを装着する
□診療前後で必ず手指衛生する
□アルコールおよびペーパータオルを携行する
□体液に触れる可能性がある場合にはグローブをする
□予期せず体液に触れた場合には直後に手指衛生する
□ケア前~ケア中は換気を行う
□エアロゾル発生手技をできるだけ避ける
新型コロナ感染が疑われる場合、上記に加えて
□咳嗽がある場合にはフェイスシールドを装着する
□ガウンまたはエプロンを装着する
□グローブを装着する(なければ直後の手指衛生)
□PPEを正しく着脱する
□フットカバーは推奨しない
□エアロゾル発生手技がない限りは、N95(KN95)マスクの装着は必要ない。
【重要】N95(KN95)マスクについて
濃厚接触者や陽性者の診療やケアにはN95,KN95は必須ではない。サージカルマスクで十分である。
国立感染症研究所「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理(4月27日)」によれば、在宅医療(ケア)の現場での感染防御については、新型コロナに感染した患者を直接ケアする場合においても、エアロゾルが発生する可能性のある手技(気道吸引、気管内挿管、下気道検体採取等)を除けば、N95は必要ないと記載されている。(下表参照)
入手困難かつ高額なN95を確保することよりも、介護専門職や患者さんももれなくサージカルマスクが着用できることを優先すべきである。
N95がないことを理由に発熱患者や濃厚接触者等の診療を拒絶することがないようにしたい。
国立感染症研究所ウェブサイトより
新型コロナウイルス感染症に対する感染管理(2020年4月27日改訂版)
表. 状況、職種、活動種類に応じた COVID-19 流行時における PPE の使用例
【重要】シューカバーについて
新型コロナが靴底に付着し拡大しているという報告がある。しかし、一般には、地面・床からの接触感染は起こりにくく、むしろシューカバーの着脱動作による感染のリスクが大きいとされている。日本医師会の診療ガイドラインにおいては推奨しないとされている。
濃厚接触者にならないための防御体制
在宅医療における新型コロナ患者(疑い含む)への感染防御(国立感染症研究所より)
Q1:どこまでの感染防御をすべきか?
感染拡大状況に応じて対応を変えていく必要があると思われる。感染拡大が目立たない地域・時期であれば、通常の診療はUPのみで十分かもしれない。しかし、感染拡大が進み、管理患者、スタッフ内にも感染者が出てくるような状況であれば、誰もが感染しているという前提で、通常診療においてもガードを強化すべきかもしれない。
しかし、在宅患者には訪問診療以外のさまざまなサービスが入っている。それらのサービス提供者が同様の感染防御策を取らなければ、患者・家族を感染から守ることはできない。
在宅医療の使命を果たすためには、自らを感染から守ることは重要である。しかし、そこまでの防御が必要と判断する状況であれば、より脆弱な患者を守るためにも、同等レベルの感染防御の支援をすべきである。
具体的には、患者・家族に対する感染防御に対する適切な情報の提供、ケアを受ける際の自己防御のためのサージカルマスクの提供など、ケアチーム全体で考慮すべきであると考える。
Q2:資材が不足したらどうするか?
感染防御資材が全面的に不足している。
厚生労働省も、ディスポーザブル製品についても、単回使用で廃棄しないようにと呼び掛けている。
【厚生労働省が示した防護具逼迫時の例外的な使用法】
●サージカルマスク:複数の患者を診察・検査する場合も継続使用。いったん外す際はマスクの外面を内側にして折りたたみ接触感染を避ける
●N95マスク:手術器具用の滅菌器を使用し、滅菌再利用する
●ガウン:体を覆い廃棄できるもの(雨合羽やゴミ袋など)で代替する。撥水性があることが望ましい。
●フェイスシールド:外側をアルコールなどで拭き、乾燥させて再利用。ない場合はシュノーケリングマスクなどで代用とあるが、クリアファイルなどを活用した自作のものも広く使われている。
Q3:PPEを簡単に理解・説明するためには?
守屋章成先生の説明が非常に解りやすい。ご本人より転載の許諾をいただき、下記に引用する。
PPE着脱は「ウンコ付けないゲームだ」
ーーー
PPEの不足や再利用,自作等で日々苦労が積み重なっていることと思います.特に再利用や自作は完全に手探り状態です.ただし元々,PPEの着脱ってエビデンスがない世界なんです.
「Aという手順での着脱とBという手順での着脱でRCTをしたら,Aの手順の医療従事者の方がエボラによる死亡が少なかった」
なんていうエビデンスはないんです.すべて「こうだからこうなるはず」という理屈だけで成り立ってます.だからマニュアルは製作者によって千差万別になるんです.千差万別なマニュアルの上っ面だけをなぞると混乱だけ増えて感染リスクが上がります.
そもそも複雑な手順を全部暗記することは不可能です.マニュアルを壁に貼っておいても,油断すると手順を素っ飛ばしたりします.ましてや再利用や自作となると,既存のマニュアルが通用しなくなります.
大事なのは理屈です.
理屈が分かりづらかったら,汚い話で恐縮ですが,ウンコだと思ってください.
ウンコがグローブにべっとり付いてる.
ウンコがガウンに点々と散らばってる.
ウンコがマスク表面やフェイスシールドにも付いてる.
その状況で,どのように手と体を動かせばウンコが地肌や衣服に付かずに済むかを,徹底的に考え抜けばいいんです.
「ウンコ付けないゲーム」だと思えばいいんです.
それでもウンコが付いちゃったら,慌てないでアルコールで拭き取って石鹸でよく洗えばいいんです.
PPE着脱とは「ウンコ付けないゲーム」です.
ウンコで大盛り上がりする小学生に戻った気分で,徹底的にゲームを研究して,勝者になってください.診療運営における感染防御
POINT.2
チームを全滅させないこと診療チームが一緒に活動していると、一人でも感染者が出た場合に、チーム内に感染者や濃厚接触者が多数生じ、結果として診療やケアを継続できなくなる危険がある。
まずはクリニック(ステーション)のオフィス内および往診車をグリーンゾーンとして維持することを目指す。また、内部に無症状の感染者がいたとしても感染が伝播しないように工夫する。
①環境保全
●オフィス内においてはマスクを装着する。
●こまめに手洗いを行う。●オフィス内では他のスタッフと物理的距離を保つ。オフィス内の着席位置を2メートルずつ離す。離せない場合にはスクール形式、または互い違いに着席する。
●換気を定期的に行う。1時間に10分は換気を。気候が許せば常時換気とする。
●よく手が触れるところをこまめに清掃・消毒する。消毒用アルコールまたは市販のワイプを用いる。特にドアノブ・テーブルトップ・PC・スマホなど。パソコンや電話は共用しない。
●往診車の使用前後で室内・ドアノブなどよく手の触れるところを清掃する。
●往診車内においてもマスクを装着する。
●往診車にて移動中・待機中にこまめに換気を行う。②チーム運営の工夫
●チームをできるだけ細分化する。
診療チームを分離し、「一つの大きなチーム」から「複数の小さな固定メンバーのチーム」を目指す。これにより1チームが感染しても、他のチームが活動を継続できる。個人で活動するメンバーは、在宅勤務や直行直帰を積極的に検討する。●訪問診療チームも多人数から少人数へ。
医師+看護師+ドライバーから、医師+ドライバーへ。
医師+看護師から、医師一人へ。
無症状の感染者がいた場合の患者への濃厚接触リスク、訪問診療車内の濃厚接触リスクを減らす。●オフィス内に多人数が集まる状況は基本的に作らないようにする。オフィスは物理的に区分し、相互の行き来を最小限にする。申し送りや情報共有・会議は、ウェブサービスを活用する。ウェブ会議システムをオンラインにしたまま業務をすることで、一体感のある協働作業ができる。
●在宅勤務・時差勤務・直行直帰を推進し、オフィス内の人口密度を下げるとともに、通勤時の混雑した公共交通機関からの感染リスクを減らす。自家用車や往診車を利用した通勤について積極的に検討する。
●感染拡大状況に応じて発熱対応専任ルートの設置を検討する。
CHECK LIST
環境保全(オフィス内)
□マスクを装着する
□着席時は物理的距離(できれば2メートル)を保つ
□スクール形式・互い違いなど座り方を工夫する
□換気を定期的に行う(1時間に10分以上)
□よく手が触れるところをこまめに清掃する
環境保全(往診車内)
□マスクを装着する
□使用前後で車内やドアノブを清掃・消毒する
□移動中・待機中にこまめに換気する
□乗車前後に手指消毒を行う。
□車内にアルコールを配備する。
チーム運営
□チームを時間的・空間的に細分化する
□在宅勤務、時差勤務、自動車通勤を推奨する
□zoomにより遠隔勤務者と常時接続する
□会議はオンラインで行う
□感染拡大状況に応じて発熱対応専任ルートを作る
POINT.3
体調不良時は必ず休むこと在宅自己隔離すべき状況は次の3つ。
①本人の体調不良時
発症から7日間かつ症状消失(解熱剤等は使用しない)から3日間。症状が長引く場合には絶対に無理をしない。また無理をさせない(本人に無言の圧力をかけないような)環境を作る。
ただし、7日を超えて症状の一部が残存する場合(感染後咳嗽など)、主治医の判断を仰ぐ。この場合、電話再診またはオンライン診療で対応するが、必要に応じて採血等の検査を実施する。主治医により新型コロナ感染症の疑いがない(極めて低い)と臨床診断されており、心身の両面において就労に支障のない場合には個別に判断する。
②家族の体調不良時
家族の発症から14日間(家族全員)。ただし、在宅自己隔離中に症状が出現した場合には、発症から7日間かつ症状消失から3日間を経過すれば復職してよい。その他、①に準ずる。③濃厚接触の疑い
最終接触から14日間。経過中、症状出現があれば主治医(または上長)に連絡、保健所に相談する。
●いずれも規定された日数、診療・ケアの現場には出てはいけない。ただし、症状消失後または濃厚接触者としての隔離期間中であり、体調に問題がなければ上長と相談の上、在宅勤務を行うことができる。ルールに則って在宅勤務が行われる場合には、当然、勤務扱いとする。
●症状消失から14日以内に勤務に復帰する場合には、14日間は必ずサージカルマスクを装着し、なるべく患者や多職種との接点を最小化するよう心がける。
●医療専門職については主治医と相談の上、PCR検査により診断・復職判断を行うことがある。PCR検査については地域によって対応が異なる。必要と判断した場合には保健所に相談する。
今後、法人内でも実施できるよう準備を進める。なお現時点で抗体検査(IgM,IgG)の実施が可能(Boston Biopharmaおよびクラボウ)となっている。なお、自宅隔離期間中の生活上のアドバイスについては、米CDCのウェブサイトが詳しい。日本語に自動翻訳してもおおむね問題ない。
CHECK LIST
□本人・家族の体調不良時および濃厚接触者であることが彰奈になった場合には規定に従って必ず自己隔離する。
□7日を超えて症状の一部が遷延する場合、新型コロナ感染症の可能性について主治医の臨床診断と自己隔離の終了について判断を仰ぐ。
□条件を満たせば、自己隔離期間中の在宅勤務を認める。
□主治医の判断に応じて、PCR検査および抗体検査について実施を検討する。
在宅・施設への感染防御
自宅・施設を「安全地帯」に!
在宅患者の多くは自力では外出できない。新型コロナが自宅や施設に持ち込まないことが、在宅患者を感染から守るために最も重要なことである。
そのために、以下の4つに留意する。
①持ち込まない
●訪問訪問者を最小限にする。
感染拡大期は家族の訪問面会は原則として制限する。
ただし、重要な共同意思決定・看取り立ち合いなどについては特別な配慮が必要になる。今後、面会制限は長期化する可能性もある。オンラインの面会は家族・入居者双方から一定の満足感がある。もし導入されていない施設があれば施設運営者とオンライン面会の導入について相談する。
●どうしても必要な出入りはグレーゾーン内で完結させる。風除け室・玄関前などにグレーゾーンを設定、それ以上、内側には入れないようにする。
●訪問者は体調チェックとともにマスクと手洗いを徹底させる。体調の悪い人の入棟は謝絶する。②もらいに行かない
●施設入居者の定期外来受診は病状が安定していればスキップするよう施設側に指導する。定期的な診察の必要があれば、一時的にでも在宅医療に移行する。(自宅の場合、同居家族についても同様)また不要不急の予定検査・処置も延期する。
●「密」を伴う外出は控える。
③有症状の職員の出勤停止を徹底する
④無症状の職員・訪問者も標準予防策を徹底する。
無症状でも感染している可能性がないわけではないので、標準予防策(マスク・手洗い)を徹底する。
CHECK LIST
□自宅・施設への訪問者を最小限に制限する。
□どうしても必要な訪問は玄関等で完結させるか、マスク装着・手指衛生を徹底させる。
□体調不良の訪問者は受け入れない。
□患者・家族・施設入居者の外来受診は原則としてスキップする。
□医療の継続が必要な家族・施設入居者は一時的に在宅医療で対応する。
□患者・家族の外出は禁止しないが、三密を避け、マスクを装着し、帰着後の手指衛生を徹底する。
□体調不良の施設職員・外部専門職の出勤停止を徹底する。
□無症状の職員もマスク装着・手指消毒を徹底する。
Q:外出・家族訪問をどう考えるか?
コロナ感染の予防は非常に重要であるが、結果として認知症が進行、身体機能が低下し、生命予後が悪化する、ということは最小限に食い止めたい。特に、フレイル予防の観点からは、身体を動かす機会および人との交流を確保することは非常に重要である。
面会制限や外出自粛が長期化することで、在宅患者のフレイルの進行が懸念される。実際、長期の面会制限や介護職員のストレスなどを敏感に察知し、精神面の不安定さを増す認知症患者、リハビリテーションやデイサービスの利用等が制限されたことで身体機能が低下している高齢患者も増えてきている。
高齢者施設においては、家族訪問を全面的に解除することはできないが、少人数の家族と施設の近くを散歩するなどの交流は、双方がマスクを装着し、第三者との社会的距離が確保できない場所を避け、外出後に手洗いや手指消毒を確実に行えば、感染リスクは少ないと思われる。
また、家族との面会をオンライン(テレビ電話)で行うことも有益であると思われる。
Q:専門職の訪問頻度をどう考えるか?
専門職の訪問は「不要不急の接触」なのだろうか。
もちろん、接触が増えるたびにリスクは累積されていくが、訪問を差し控えたことで必要なケアが提供できなければ本末転倒である。
在宅医療における「必要なケア」とは「継続的・計画的な医学管理」を通じた「安心できる生活の継続の支援」である。
①既存疾患の治療
②予想されるリスクの回避
③急変時の24時間対応、早期発見・早期在宅治療
④人生の最終段階における意思決定支援⑤看取り援助
これらが在宅医療の本来の使命である。訪問を過度に差し控えることで、既存疾患が増悪し、誤嚥性肺炎や骨折のリスクが増大し、急変時のスムースな対応に支障が生じ、不安な中で本人・家族にとって不本意な選択をさせ、結果として救急搬送や入院を増やしてしまっては、地域医療として果たすべき役割が果たせていない。
医療専門職の介入はもともと頻度が小さく、時間も短い。在宅医療を差し控えても、対人接触の総量を減らすことにはあまり貢献できない。また医療専門職の訪問は代替しにくいものが多い。患者にとっての利益に配慮したバランス感覚が必要である。
施設内での感染伝播を防ぐ
無症状の人からの感染があり得るということを前提として理解しておく必要がある。
集団感染が発生した「グリーンアルス伊丹」では無症状の利用者(家族が発熱していた)から感染が拡大した。本人・家族の健康状態を確認することは大切だが、それは感染していないことの証明にはならない。「もし万が一感染していたとしても、感染が拡大しない体制づくり」を意識する必要がある。
●デイサービス・通所機能の併設など、外部との人の出入りのある高齢者施設では、入居者と動線が重ならないようにし、関わる専門職も複数部門(特に外来部門と入居部門の兼務)を担当しないようにする。
●施設職員は、なるべくフロアごとに人員を固定する。
●ショートステイの利用者の体調管理に留意する。標準予防策を徹底し、2週間以内の滞在であれば公共スペースでは原則としてマスクを装着して過ごしていただく。
●体調の悪化した入居者に対する対応については、主治医と相談しながら、臨床的に新型コロナ感染が除外できない場合には、居室内管理を原則とする。
これらを実施するためには、施設運営者・現場スタッフとの連携が重要になる。
第一防衛線:「生命を守る」②
診断
POINT●第一予防線その②は、発熱・呼吸器症状を適切に診断できること。●在宅医が新型コロナを恐れ臨床診断を放棄すれば、患者・家族・介護職を不安と恐怖に陥れるとともに、治療可能な発熱性疾患を見落とせば患者の生命を危険に晒す。
●発熱・咳嗽・倦怠感等を認めたら、新型コロナの可能性を常に意識する。
●地域における感染拡大状況および濃厚接触歴を十分に評価する。
●感染拡大期においては、事前確率と患者の症状(特に上気道症状の有無)に応じた感染防御体制で診療に臨む。●新型コロナ以外の発熱性疾患の可能性を見逃さないよう、臨床検査も含め、きちんと診断する。●感染爆発期においては、新型コロナであるという前提で最初から関わる必要がある。発熱・呼吸器症状のある患者への対応について
患者対応の実際
まずは不安に適切に応えられること
発熱・呼吸器症状がある患者や家族は、「もしかしたらコロナかもしれない」という不安と恐怖をもって相談している。不安な気持ちに丁寧に応えながら、相手の理解度・対応力を探りながら、最適な対応を選択する。
基礎疾患のある在宅患者にとって、発熱・呼吸器症状=新型コロナというわけではない。思考停止に陥ることなく、普段と同様、臨床推論をしっかりと行い、新型コロナらしさ(事前確率)を考える。(ちなみに2020年4月においては、発熱・呼吸器症状の患者のほとんどが新型コロナ以外の疾患(一般感冒、肺炎、尿路感染症など)と診断され、それに応じた治療が行われている。)
まずは、電話再診で事前情報を十分に確認する。①患者の症状、②既往歴や現病歴、③最近の体調や治療状況に加えて、④患者の暮す地域やコミュニティにおける感染拡大状況、⑤患者への接触者の体調等についても十分に聴取する。そのうえで、電話再診だけで完結できるか、往診が必要かを判断する。
もちろん、直接接触を減らしたほうが感染のリスクは下がる。従って、できれば電話再診で完結できるのであれば、それでもよい。しかし、患者や家族の自己申告だけでは判断が難しいことも多い。また、細菌感染症を見逃し、放置することは許されない。新型コロナの可能性があるというだけで往診することをためらうべきでない。
往診をする場合の感染防御
「濃厚接触しないための現場での感染防御の実際」を参照のこと。濃厚接触を避けるための基本4条件に、状況に応じて追加4条件を加える。
●患者には、電話再診の時点で到着予定時刻を伝え、部屋の換気およびサージカルマスクの装着を依頼する。
●基本的には、仮に新型コロナ感染症であったとしても、咳嗽やエアロゾル発生がない限りは基本4条件だけで十分である。追加4条件をどこまで満たすべきかは、事前確率、臨床推論に基づいてケースバイケースで判断する。
もし、新型コロナの可能性が高いと判断するのであれば、家族・その他の医療介護多職種にも、その臨床診断を伝え、感染防御およびケア体制の見直しを行う必要がある。
国立国際医療研究センターによる医療専門職の感染予防策についての提言があるので、参照しておくこと。
●患者の居室内に持ち込むものは必要最小限に絞る。
PCやタブレット・スマホなどの情報通信機器は、居室内には持ち込まない。患者情報の確認は居室外で行う。
バイタルサインなどは直近の測定値があれば、それを確認する。血圧の測定は、臨床判断のためにどうしても必要である場合以外は行わなくてもよい。動脈血酸素飽和度の測定、体温の測定は、測定終了後に機器の消毒(アルコール綿やワイプでの清拭)を確実に行う。
●やむを得ずPCや携帯を持ち込む場合はPPE装着前にビニール袋に入れ、診療終了後アルコール消毒もしくは次亜塩素酸で消毒する。 (次亜塩素酸は腐蝕の可能性があるため10分後に水で再度清拭)
その場合、以下を遵守する。
・タッチパットを拭いた後は、必ず、乾拭きをする。
・キーボードや画面、外側や側面も拭き上げて構わない。
・霧吹き等で噴霧しない。往診の順序
往診により医療専門職が新型コロナウイルスを運搬する可能性はゼロではない。可能な限り、ハイリスク(感染すると重症化のリスクの高い)患者を診療ルートの前半に、新型コロナを疑う発熱・呼吸器症状のある患者に対する往診は、できれば最後に行う。患者家族、施設職員としては早めに診察してほしいという希望が強いと思われるが、必要な指示(解熱剤投与など)をあらかじめ電話で行っておくことで、診察まで待っていただく。なお、全身状態が悪く、新型コロナよりも肺炎などの別の発熱性疾患がより強く疑われる場合には上記の限りではない。
オンライン診療について
発熱患者の初診および在宅や宿泊施設等での隔離ケア中の健康状態のモニタリングにオンライン診療が活用できる可能性がある。2020年5月よりオンライン診療の運用ができるよう、準備を進めている。
オンライン診療は原則として予約制である(アプリ経由)。予約外の臨時対応については原則として電話再診、必要に応じて往診となる。
発熱・呼吸器症状のある患者の居室にPCは持ち込まない。持ち込む場合にはビニールで保護し、使用後に消毒を行う。
CHECK LIST
□患者の不安に適切に応えられることが大切。
□現時点では発熱・呼吸器症状患者のほとんどが新型コロナではない。発熱性疾患をきちんと診断・治療することがとても大切。
電話再診・オンライン診療
□電話再診では体調以外に、コミュニティにおける感染拡大状況、患者の接触歴等も検討する。
□電話再診のみで十分な診断・治療ができない場合には往診を躊躇しない。
往診
□往診にあたっては到着時刻をあらかじめ患者に伝え、部屋の換気とサージカルマスクの装着を依頼する。
□咳嗽およびエアロゾル発生手技がない限りは、基本4条件だけで十分である。咳嗽やエアロゾル発生手技がある場合には追加4条件について検討する。
□患者の居室内に持ち込むものは必要最小限に絞る。
□血圧測定は必ずしも必要ない。
□診療ルートの組み方に注意する。ハイリスク(感染すると重症化のリスクの高い)患者を最初に、新型コロナウイルス感染が疑われる患者を最後に診察するようにする。
新型コロナの診断フロー
新型コロナ感染症をどう診断するか?
臨床症状だけで新型コロナと確定診断することはできない。CTが最も有用とされているが、在宅では実施できない。PCR検査が確定診断には必要であるが、在宅での実施には制限が生じる。
A.感染拡大期・濃厚接触歴が明らかでない場合感染拡大期においては、発熱・上気道症状を呈する患者の中に、新型コロナ感染者がいる可能性を考慮する必要がある。ただし、在宅患者の多くは自宅や施設に隔離された状態で生活をしている。生活状況から、外部から感染が持ち込まれた可能性について十分に考慮し、すべてを新型コロナ感染という前提で考えるべきではない。
例えば、医療法人社団悠翔会においては、例年、毎月300件を超える発熱に関する緊急コールを受けている。これらの発熱の多くは誤嚥性肺炎や尿路感染、その他のウィルス感染症等であり、新型コロナ感染拡大期において、いきなりすべてが新型コロナ感染症にリプレイスされるわけではない。
日常診療における発熱コールの頻度も意識しながら、冷静な臨床推論に基づいた判断が求められる。
年森慎一先生の作成された対応フローを右に添付する。臨床症状から新型コロナを除外診断したい場合、適切な予防策を取った上でまずは血液検査を実施する。
①白血球の上昇(正常~減少)を伴わない
②リンパ球が減少することがある
③CRPが中等度上昇に留まる
④プロカルシトニンが上昇しない
⑤ALT、AST、LDH、CPK、ミオグロビンが高値を示すことがある
などの特徴から、細菌感染症を鑑別診断することはある程度可能である。また肺炎の評価に対し、超音波検査の有用性も示されている。しかし、確定診断にはPCR検査が必要になる。
B.感染爆発期または濃厚接触歴が疑われる場合
臨床的に疑わしいケースにおいて新型コロナ感染症の割合が高くなる。発熱に関するコールの絶対数は増加し、その増加分の多くは新型コロナに関係するものの可能性が高い。
このフェイズになると、診断においてPCR検査を実施することの意義はほとんどない。PCR検査の感度は6~7割程度とされている。検査の実施の有無、検査結果の如何にか関わらず、新型コロナ感染症として対応することが必要になる。
ただし、在宅緩和ケアや看取りを視野に支援する場合には、ケア体制および死後の対応を決めるために、PCR検査を実施しておいたほうがよい場合もある。
なお、悠翔会では、新型コロナウイルスの感染拡大フェイズを1~5に分類し、それぞれのフェイズにおける対応の目安を下表のように暫定的に定めている(2020年4月6日現在)。
PCR検査について
現状、PCR検査の実施は容易ではないが、検査の実施は少しずつ容易になりつつある。地域によってはPCRセンターが設置され、検査が実施可能なところもあるが、多くの地域においてはまずは保健所に相談する。一般的には、重症化が懸念される状況でなければ検査に進めないこともある。
療養支援方針・体制の決定のために感染の有無の可能性の判断が重要な場合には、PCR検査を実施を検討する。
保健所に相談の上、主治医が在宅で検体を採取するという選択肢がある(地域による)。悠翔会の診療圏においては、川崎、足立などでそのような対応の経験がある。また今後、悠翔会内でも必要に応じて安全にPCR検査が実施できる体制を構築していく予定である。
また、高齢者施設においては、感染拡大が起こりやすい。高齢者施設における新型コロナ感染の早期検査対応の必要性も高まると思われる。
施設におけるPCR検査への対応には環境調整等、十分な事前準備が必要である。練馬クリニックチームが施設におけるPCR検査の実施について課題を整理した資料がある。
抗体検査について
抗体検査は、新型コロナに感染が疑われるけれどもPCR結果が陰性たったケースの診断補助および無症候性感染の特定に役立つ可能性がある。
しかし、抗体産生までには時間がかかり、感染力のある状況において陽性になることが多いPCR検査とは異なり、療養支援体制を決める上ではあまり役に立たない。
症状の発症後19日以内に、患者の100%が抗ウイルス免疫グロブリンG(IgG)検査で陽性になるとされる。
IgGおよびIgMのセロコンバージョンは、同時または順次発生し、IgGとIgMの両方の力価はセロコンバージョン後6日以内にプラトーになる。
現時点(2020年4月)では、保険診療としては実施できないが、悠翔会においては研究用として、Boston Bioparma社およびクラボウの検査キットが使用可能である。
COVID-19症例報告に記載されている症状と身体所見
発熱、咳嗽、倦怠感、頻脈、咽頭痛などが多い。しかし、味覚・嗅覚障害はまだ報告に記載されていない。(現在整理中の症例報告には記載があるものが散見される)
日本医師会COVID-19有識者会議・COVID-19症例データベースより
CHECK LIST
□発熱・呼吸器症状=コロナではない。
□地域・コミュニティにおける感染拡大状況を把握する。
□患者や家族の濃厚接触歴を把握する。
□臨床診断の補助として、必要と判断すれば、血液検査を実施(血算・血液像・CRP・プロカルシトニンは必ず測定)する。
□肺エコーの有用性が示唆されている。
保健所への相談
□疑いが濃厚な場合、保健所に相談し、指示に従う。
PCR検査について
□確定診断にはPCR検査が実施。
□PCR検査は必ずしも療養支援方針の決定には必要ない。(療養支援体制を構築する上での参考にはなる)
□PCR検査の実施については、保健所の相談を経ることが一般的。
□一部地域についてはPCRセンター等への依頼が可能。
抗体検査について
□臨床的な方針決定にはあまり有用ではない。
- 第二防衛線:「生活を守る」在宅療養支援
POINT
●第二防衛線は在宅療養継続を望む患者・家族の生活を守ること。
●新型コロナは指定感染症であり、基本的には保健所または病院の指示に従う。新型コロナに感染した要介護者の安全な(感染を拡大させない)在宅療養支援は容易ではない。従って、可能な限り入院病床を探す努力をすべきである。●しかし、下記の条件を満たす場合、新型コロナ感染者・濃厚接触者に対する在宅療養支援を行う。①保健所・病院より入院以外の経過観察を指示され、かつ患者・家族が在宅での療養継続を希望した場合。②当該地域において入院・入所先の確保が不可能な場合。●新型コロナとの戦いは14日間の期間限定。●この期間中に「患者の生命を守り、感染を拡げないこと」が最重要である。一時的なQOL低下はやむを得ない。●必要なファクターは3つ①期間限定のシンプルなケアプラン(医療系を中心に最小メンバーで最小介入)②感染防御資材の確保(全メンバーが必要十分な感染防御ができるように)③関わるケアチームの感染防御スキル(特に家族・介護職に対する十分な教育)●集団感染の発生した施設においては、全員を入院させるのではなく、施設内で隔離するのが現実的選択肢。●ゾーニング・コホーティング・チーム支援が重要になる。14日間を安全に乗り切ることを目指す
今後、在宅医療は、新型コロナと診断された軽症患者・早期退院患者、新型コロナの疑いが濃厚な患者(濃厚接触者)、重症化したとしても検査や入院を希望しない在宅患者の療養支援を担当する可能性がある。
非常に難しいミッションであるように思われる。しかし、現在有症状であるとすれば、7日~14日の期間限定のミッションでもある。この期間中「感染を拡大することなく、患者の生命を守ること」が新型コロナの在宅療養支援の目的となる。
これはQOLや自立支援を重視する従来の関りとは異なる。本人や家族にも在宅療養支援の目的を十分に理解してもらった上で、ケアに協力してもらう必要がある。
CHECK LIST
在宅療養支援の適応があるか?
□まずは保健所・病院に相談する。
□保健所・病院より入院外療養を指示され、患者・家族が在宅療養継続を希望している。
□患者・家族は在宅療養継続を積極的に希望していないが、当該地域において入院・入所ができない。
在宅療養支援の目的は
□新型コロナ感染症の治癒まで、または濃厚接触の観察期間の14日間(経過によって変動する可能性あり)において
□患者の生命を守ること□感染を拡大しないこと
□通常の在宅療養支援とは目的が異なることを、患者・家族・ケアチームで共有する
POINT.1
14日間限定のシンプルなケアプラン在宅療養支援の継続(または入院からの移行)が決まったら、ケアマネジャー、訪問看護ステーションと相談し、14日間限定のシンプルなケアプランを作る。
A.身体介護・直接的生活支援
できるだけ少ない介入で、医療系専門職を中心に、患者が最低限度の生活を維持できるよう、必要最小限のサポートを行う。通常、在宅療養支援は介護専門職が主役となる。しかし、感染症への対応はゾーニングやPPEの正しい着脱などの知識やスキルが必要であり、なるべく介護専門職に依存しない、感染対応に習熟した医療系専門職の支援を中心としたケアプランとする。
介護専門職が実施していたケアは訪問看護師が、訪問看護師が実施していたケアの一部は訪問診療が担うなどの逆タスクシフトを検討する。また、電話やオンライン診療・オンライン看護も活用する。
B.間接的生活支援
同居する家族も濃厚接触者となり、外出等ができない。したがって、日常生活に必要な食料品や日用品を継続的に確報できる体制づくりが必要になる。また、家族の能力によっては、オンラインストア等で食品を確保できるが、そうでない場合には、介護専門職または訪問する多職種が一部支援をしなければならない可能性がある。
地域によってはボランティア組織など支え合いの仕組みが機能している(機能する可能性のある)地域もある。あらかじめ、在宅療養支援体制づくりについて相談しておく。
C. 14日間の集中支援体制を作るために
■訪問診療について
訪問診療は週に3日まで保険請求できる。緊急対応(電話再診・往診)およびオンライン診療は特に制限なし。
■訪問看護について
訪問看護の利用にあたっては介護保険の他、厚生労働大臣が定める疾病等、厚生労働大臣が定める状態等であれば医療保険による訪問看護が利用できる。
ただし、1日1回(90 分程度)× 週 3 日までとなり、これだけでは十分な支援ができない可能性がある。
以下の状況であれば特別訪問看護指示書を発行できる。
①肺炎や心不全などの急性増悪
②疾病に関わらず終末期である
③退院直後
新型コロナの在宅療養支援の多くは無症状~軽症が中心になると思われる。特別訪問看護指示書は発行しにくいが、新型コロナにより呼吸器症状が強く出ている場合には、肺炎という診断および緩和ケアへの移行が想定されるため、特別訪問看護指示書が発行できる。
なお。病院からの早期退院・在宅移行ケースであれば、③により特別訪問看護指示書を発行でき、退院当日から介入が可能となる。
患者の状態・家族の介護力によっては、医療保険・介護保険サービスだけでは支えきれない可能性があることは説明しておく必要がある。
CHECK LIST
□ケアマネジャーに暫定ケアプランの作成を提案する。
□14日間「患者の生命を守る」ための必要最小限のケアを検討し、患者・家族と共有する。
□介入する頻度を最小限に絞る。家族の介護対応能力を評価する。
□介入する専門職の人数を最小限に絞る。
□特に感染防御に習熟した介護専門職でない限り、なるべく訪問看護と訪問診療だけで直接支援を行う。
□特に適切な感染対応スキルを持つ訪問看護ステーションの協力が非常に重要になる。あらかじめ、地域単位で対話を開始し、シミュレーションしておくことが望ましい。
□2週間の在宅隔離生活を維持するための食糧や日用品の確保ルートを確認する。
POINT.2
ケアプラン遂行に必要な資材を確保ケアに関わる全ての人(患者・家族・専門職)が必要とするすべての資材(PPE)をあらかじめ確保し、患者宅に配置しておく。
在宅療養支援診療所、訪問看護ステーションなどが個別に準備する場合、事業所ごとに確保状況にばらつきが生じる可能性がある。また患者にもマスクを装着してもらう必要があり、もちろん同居する家族介護者を感染から守る必要もある。全員が適切に感染防御が行えることが重要である。
そのために、ケアプランの遂行に必要なPPEを患者単位で準備することを標準としたい。PPEは1週間分ずつセットし、患者宅に配置する。本人の症状消失から3日間はPPEを装着する。
CHECK LIST
□ケアプラン遂行のために必要な物量を見積もる。
□患者・家族が使用する分についても合わせて考慮する。
□2週間分の資材を確保し、1か所にまとめ、患者宅に配置する。
□配置すべき物品については下記を参考にする。
1日あたりの専門職の介入を延べ4人・毎日2人と想定。
①サージカルマスク(一人1日1枚・家族は1日2枚)
1日あたり5枚×14=70枚
②グローブ(一人1日1組・家族は2組)
1日あたり5組×14=70組
③ガウンまたはエプロン(一人1日1枚・専門職のみ)
1日あたり3枚×14=42枚(ただし再利用を検討できる)
④フェイスガード(一人1枚)
4枚(再利用前提)
⑤N95またはKN95※
10枚(※ただし激しい咳嗽または喀痰吸引などのエアロゾル発生手技がある患者のみ)
□資材の確保は悠翔会が中心となって行う。かかるコストについては法人負担を原則とする。
POINT.3
感染防御の知識とスキルの共有
ケアに関わる全員で適切な感染防御の知識とスキルを共有する必要がある。
特に、患者・家族、介護専門職は感染防御のための知識やスキルを十分に持っていないことが多い。しかし、チーム全体で一定以上の対応ができなければ、感染拡大を防ぐことはできない。患者・家族・介護専門職にも理解しやすい感染防御の啓発資料や動画等を活用し、合理的・効果的な教育・研修を行う。
以下の資料がわかりやすい。
COVID-19にかかった人を自宅でお世話するにはどうしたら(BBC動画・日本語字幕あり)
以下の2枚は、西村真里子さん(Heart Catch)と久々江美都さん(武蔵野美術大学大学院)が作成されたもの。二次使用が許可されている。
CHECK LIST
□特に患者・家族および介護専門職に対する教育が非常に重要である。
□資料を用いて、わかりやすく説明し、習熟状況をきちんと確認するところまで責任をもってやること。
施設が隔離施設になる前提で考える
作成中
ゾーニングとコホーティング
作成中
- 第三防衛線:「尊厳を守る」意思決定支援と緩和医療POINT●新型コロナウイルスに感染した後の転機は、医学的にはコントロールが困難である。●感染が疑われる場合、積極的な検査や治療をどこまで行うのか、具体的に考えておくことが望ましい。●病状経過は、無症状~軽症、中等症、重症でそれぞれ異なる。●治療方針・療養方針の選択にあたっては、病状経過の見通しを共有する。●臨床倫理の四分割表で整理するが、指定感染症でもあり、必ずしも本人・家族の意向が最優先できないこともある。●中等症以上の場合、在宅緩和ケアが必要になる。●死亡診断後のフローは通常の疾患とは異なり、(現時点では)一類感染症に基づいて遺体が取り扱われる。
新型コロナの3つの病状経過
感染後の病状経過については、大きく次の3つのパターンが考えられる。
①自然治癒パターン:無症状~軽症で経過し、7日から14日程度で治癒する。
②衰弱進行パターン:軽症~中等症で経過し、経過中に全身状態が徐々に悪化、摂食障害や細菌性肺炎などを合併し、全身衰弱が進行する。
③急性呼吸不全パターン:中等症~重症の肺炎を発症し、呼吸不全が急速に進行する。
療養場所の選択にあたっては、患者・家族の希望を確認した上で、保健所に相談する。
療養場所(病院・自宅・施設)に関わらず、①で経過することを期待しつつ、②・③になった場合にどうするのかということはあらかじめ考えておく必要がある。
①自然治癒パターン:
発熱や上気道症状が中心となる。倦怠感や消化器症状を伴う場合もある。食事・水分がしっかり摂取できるよう支援しながら、対症療法で自覚症状を緩和する。
入院治療を選択する場合には、重症化予防を期待し、アビガンなどの治験による薬物治療が検討される場合がある。
②衰弱進行パターン:
積極的治療を希望する場合には、入院すべきである。それぞれの病態に対する治療(栄養ケア・肺炎治療など)を行いながら、全身状態の回復を目指す。重症化予防を期待し、アビガンなどの治験による薬物治療が検討される場合がある。
積極的治療を希望しない場合には、対症療法で自覚症状を緩和しながら、通常のエンドオブライフケアに準じて、看取り援助を行う。
③急性呼吸不全パターン:
積極的治療を希望する場合には、入院が必要である。肺障害の程度に応じて酸素吸入⇔人工呼吸管理⇔ECMOを用いて治療を行う。複数の治験的薬物投与を行いながら、全身状態の回復を待つ。ただし、治療そのものの侵襲が大きく、要介護高齢者の場合には、積極的治療を断念しなければならない場合がある。また、侵襲的治療を行ったとしても、多疾患の在宅患者については予後の見通しは非常に厳しい。
積極的治療を希望しない場合には、在宅で緩和ケアによる呼吸困難感の緩和を行いながら、看取り援助を行う。
●いずれの場合においても、対症療法が中心となる。治療的介入が重症化を防ぐという証拠は明らかではない。ただし、入院治療する場合、治験的治療が実施できる可能性がある。
●補液は喀痰量を増加させ、エアロゾル発生手技である気道吸引などが必要になる可能性がある。その適応について慎重に判断する必要がある。
●病院で死亡した場合には、現状、一類感染症に準じて遺体が取り扱われることが多い。多くの場合、家族との面会は火葬後となる。また、遺体の搬送および火葬の実施にあたっても多くの制約がある。これは療養方針の選択の上で、重要な要素の1つと考える家族は多い。
在宅患者の新型コロナウイルス感染症の病状経過 3パターン
意思決定支援
治療方針・療養方針の決定にあたっては、まずは上記の病状経過の見通しについて共有する。A~Cのいずれかのパターンになることを理解した上で、方向性を一緒に考えていく(Shared Decision Making)。
通常の方針決定と同様、臨床倫理の4分割表に基づいて課題を整理していくと、おのずと最適な(みんなが納得できる)選択肢に行きつける可能性が高い。
ただし、状況の急激な展開、病状の急激な変化により、医師がイニシアチブをとるべき状況も想定しうる。
①医学的適応(Medical Indications)
新型コロナ感染症の治療とは、本人の生命力によりウイルス感染症を克服するまでの間、本人の生命活動を維持するということ。
早期発見・早期治療によっても重症化のリスクを軽減できない。また、重症化すると生命維持のために侵襲の強い治療が必要になる。もともと体力の低下している高齢患者の場合には、侵襲の高い治療が必要になった状況からの回復の見通しは非常に厳しい。
②QOL(Quality of Life)
自然治癒すれば、もとの生活を継続できる可能性が高い。しかし、中等症からの全身衰弱が起こると、これは不可逆になる可能性がある。また、重症から人工呼吸管理となった場合、抜管できない可能性が高く、生命維持が可能であったとしても、生活の継続は不可能となる。
緩和医療の可能性についても言及する必要がある。呼吸困難感に対し、自宅でできることは酸素投与と麻薬投与、状況に応じては鎮静を行うことになるが、選択肢は著しく限られる。在宅療養が選択肢に入る場合には、その限界について十分に説明した上で議論する。
③患者の意向(Patient Preferences)
患者の精神的判断能力が保たれている場合には、病状経過の見通し及び治療することのメリットとデメリットについて十分に説明した上で、本人の意向を確認する。
判断能力が保たれていない場合には、事前指示の有無を確認するとともに、推定意思確認のために家族および訪問看護師・介護専門職からも参考意見をもらう。
④周囲の状況(Contextual Features)
家族の意向や介護力、現在のケアチームの対応能力などから、現状で在宅療養支援の継続が可能かどうかを検討する。
通常であれば、本人の意向を最優先するが、新型コロナが指定感染症であるということを考慮すると、周囲を感染リスクから保護するという視点も求められる。当然、保健所など関係当局への報告と相談が必要である。
また、在宅での療養支援には大量のPPEが必要になる。限られた感染防御資材の最適な分配という視点から、特定の在宅療養支援に資材を消費することが社会的に許容されるかということについても検討すべき状況があり得るかもしれない。一方で、入院病床・集中治療室のキャパシティが厳しくなる状況も想定される。
上記4点について、本人・家族、関係するケアチームで話し合いを重ねながら、方向性を決めていく。感染してから(疑われてから)話し合うよりも、通常のACPと同様、普段から話し合いを始めておくことが望ましい。
ただ、状況によっては話し合いを重ねる時間的余裕がない場合も生じうる。十分な話し合いをしないまま、方向性の決断を強いられる状況も考え得る。
臨床倫理4分割法(Jonsen ARほか著.赤林朗ほか監訳. 臨床倫理学 第5版. 新興医学出版社.2006;p13より転載)
在宅での緩和医療
新型コロナウイルス感染(またはその疑いが強い状態)であるが、本人・家族が病院での積極的治療を希望しない場合には、在宅での療養支援を継続することになる。
無症状~軽症で経過する場合には、通常の在宅医療で十分対応可能であるが、強い呼吸困難感を伴う場合には、状況に応じて在宅緩和医療の提供を開始する。
A. 息切れや咳嗽などの呼吸困難を認めているが、酸素吸入は必要としないケース
①症状に応じて以下からレスキューを選択し、すぐ使用できるよう準備しておく。
□コデインリン酸塩錠 20㎎ 1錠
□モルヒネ原末 2~3mg
□オプソ内服液 5mg (がん患者のみ)
□ナルラピド錠 1mg (がん患者のみ)
②1日に複数回レスキューを使用するようであれば、下記定期使用を考慮する。
□コデインリン酸塩 20mg 4錠分4
□モルヒネ原末 12~18mg 分6
□MSコンチン錠 10mg 2錠分2
□ナルサス錠 2mg 2錠分1
新型コロナ肺炎の治療薬としてのステロイドの使用については議論がある(推奨しないという報告もある)が、緩和医療という考え方からは状況に応じて検討してもよいかもしれない(リンデロン 8㎎など)。
③酸素吸入を必要とする状況であれば、オピオイドの持続注射を開始する。▼Bへ
B. 酸素吸入を必要とするケース
今後、急速な悪化を来す可能性からオピオイドの持続注射を開始する。
□塩酸モルヒネ注 10mg 2A+生食 2ml 持続皮下注・静注 0.05ml/hで開始
□ナルペイン注 2mg 1A+生食 3ml 持続皮下注・静注 0.05ml/hで開始
□フェンタニル注 原液 持続皮下注・静注 0.25ml/hで開始
□もともと内服のオピオイドを使用 等換算のオピオイド注射剤にスイッチ
※いずれもレスキュー投与として1時間量。
※ナルペイン注はがん患者のみ使用可
※効果不足の際は投与量の50%程度増量
※急速な症状の悪化の場合は100%増量
C. オピオイド単剤で効果が乏しい、またはせん妄が合併する場合
①ハロペリドール注 2.5mgの定時投与(鎮静効果は乏しい)
②ミダゾラム注 1.5mg 皮下注・静注 30分あけて反復可
③ミダゾラム注 10mg/日程度の持続皮下注・静注(鎮静的な意味合いも含まれる)
※本章は、下記学会からのガイダンス等の引用した上で、永寿総合病院緩和ケア科廣橋猛医師が作成したものに法人内にて一部加筆している。
本邦の薬剤事情等を考慮して作成されているが、現場の状況により変わっていく可能性もある。
・Canadian Association of Emergency Physicians
・European Society for Medical Oncology(作成途中)
・Association for Palliative Medicine of Great Britain and Ireland
【参考】
日本緩和医療学会COVID-19患者の呼吸困難への対応に関する手引き(病院版)
以下に、日本緩和医療学会COVID-19関連特別ワーキンググループによる「COVID-19患者の呼吸困難への対応に関する手引き(病院版)」を引用する。
この⼿引きの対象患者は「呼吸困難を有する COVID-19 ⼊院患者」とされており、在宅患者は想定されていない。しかし、人工呼吸管理を希望しない入院患者に対する緩和ケアは、特に対応フローについては在宅医療でも同様である。なお、この⼿引きを参考にする際には以下の点に留意する。
・COVID-19 患者の呼吸困難への対応に関するエビデンスはもちろん確⽴されていないため、本⼿引きはその他の疾患領域での対応を踏まえたエキスパートオピニオンに基づいている。
・各施設によって利⽤可能なリソースが異なるため、利⽤可能な機器や体制に合わせて各施設に合った内容に修正することが望ましい。
・保険適⽤外の薬剤・投与法も記載されている。
・COVID-19 の流⾏状況に伴って医療環境も変化してくことが予想されるため、今後改訂もあり得る。 - 死亡診断と死後対応●死亡診断は他疾患と同様、確定診断がついていない場合には臨床診断名を記載する。●死亡診断時には、飛沫・エアロゾル感染は生じないが、エンゼルケアの際には注意が必要。●死後の処理について、遺体を遺体収納袋に格納し、医療機関から火葬場に直接搬送される。●納棺後の遺族との対面は難しい状況となっている。
1.死亡診断
通常の死亡診断と同様に行う。
死亡診断時には、飛沫感染やエアロゾル感染は生じえないので、死亡前に発熱や咳嗽があった患者についても、ユニバーサルプリコーションで十分である。N95マスクやフェイスシールドなどは必要ない。ただし、接触感染は生じうるので、グローブを着用するか、診察後に十分な手洗いまたはアルコール手指消毒を行う。死亡診断書の記載は、手洗いまたはアルコール手指消毒後に行う。
診断名は通常通り記載する。確定診断がついていない場合には臨床診断名を記載する。
2.エンゼルケア
葬儀会社では対応できない可能性が高い。従って、在宅医療機関または訪問看護ステーションの看護師が実施することになると思われる。
基本的なことは、通常と同様であるが、大切な家族を失われた深い悲しみとともに、新型コロナウイルス感染症で亡くなられたことに対するご家族の戸惑いや不安もはかりし
れないことに配慮し、対応にあたりたい。
感染拡大の防止と周囲の不安を最小限にするためにも、主治医や行政、葬儀会社と連携をとりながら対応する。エンゼルケアの際には、体液の取り扱いにより飛沫が生じる可能性がある。接触感染のみならず飛沫感染の防止にも配慮する必要がある。従って、ユニバーサルプリコーションに加え、グローブおよびガウン、フェイスガードを着用する。N95は必要ない。
ケア中は常時換気を心掛ける。また、エンゼルケアの際には必要最小限の物品で、必要最小限の作業動線でケアが完了するよう留意する。
準備するもの
① 介助者が着用するPPE
② 清拭用具(タオル、微温湯とバケツや洗面器または微温湯で絞ったタオルをレンジで温めても良い)
③ 美容用具(くしやブラシ、爪切り、髭剃り、必要時化粧品)
④ 口腔ケア用のスポンジやガーゼ。歯ブラシの使用は特に飛沫の発生に注意する。
⑤ パットまたは紙おむつ(排泄された汚物処理に使用)、絆創膏、防水性のドレッシング材
⑥ 下着および着衣(本人や家族の希望のものをあらかじめ準備)、必要時化粧品
⑦ 脱脂綿、青梅綿、ガーゼ、綿棒
⑧ ピンセット(または割りばし)
⑨ 白い布(30cm四方)
⑩ 非透過性納体袋、棺の拭き取りや環境消毒の際に使用する次亜塩素酸ナトリウム(0.05~0.5%)または消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノール等および拭き取りに使用するタオルやガーゼ類
⑪ ごみ袋(ビニール袋)
⑫ 非透過性納体袋(葬儀社に確認)
※⑦から⑨はエンゼルセットとして一括準備できるものがある。必要最小限の持ち込みを心がける。基本的手順
1.医療器具の抜去
ペースメーカーについては、取り出すことでのご家族の心的な負担や医療者への感染が懸念されることもあり、ペースメーカーが挿入されていることを家族や葬儀社より、火葬場の担当者に伝達してもらうように伝えておく(火葬場によっても対応が異なることもあるので、事前に担当チームで問い合わせておくとよい)。
2.医療器具の抜去後の処置
注射針痕は穿刺部被覆保護材(チューシャバン等)または、必要時ガーゼを当て防水性のドレッシング材の貼付、ガーゼを用いて圧迫固定を局所の状況に応じて選択する。
気管切開や胃瘻、ドレーン等抜去痕は十分に排泄物を除去した後、青梅綿・ガーゼを詰め、ガーゼやパット等をあて、絆創膏固定か防水性のドレッシング材を貼付し、漏出を防ぐ。防水性ドレッシング材を使用する場合、医療器具抜去部から体内ガスが放出するため、ドレッシング材と皮膚との隙間ができないように密着させる。
3.創傷部位の手当て
褥瘡などの湿性の体液及び膿のある創傷部は、十分なガーゼやパット等をあて、絆創膏固定か防水性のドレッシング材を貼付し、漏出を防ぐ。
4.排泄物の処理
ビニール袋を用意し、廃棄するものをすぐに入れられるようにしておく。右側臥位または顔面を右に向け、心窩部を押して胃の内容物を出す(紙おむつやパットに吸水する)。紙おむつを当てて体を仰向けにし、恥骨を押して尿を排出する。左側臥位にし、下腹部を押しながら直腸内の便を排出する。
5.口腔ケア飛沫の発生に注意する。
6.腔部(鼻、口、耳、肛門、膣)に詰め物(青梅綿)を詰める排泄物の漏出が懸念されない場所は、詰める必要はない。
7.全身清拭
8.着衣の装着
9.容姿を整える
10. 遺体格納袋へ納め、ジッパーを締めた後、外回り担当者が非透過性納体袋を消毒薬で清拭する。
11. 環境消毒をし、ごみは密閉し廃棄する(医療廃棄物は持ち帰る)。介助者について
院内であれば、感染管理から、ご遺体のケアを担当する看護師と外回りの看護師を配置し、担当する業務を分け、ご遺体を納めたあと、外回りの看護師が非透過性納体袋と棺の外側を消毒薬で清拭する。しかし、2人の看護師の配置は感染管理の部分からも適切ではないと思われる。
そのため、ご家族が外回りの役割を担当できれば、協力を依頼し、難しければエンゼルケアをメインで行う看護師が二役を担当する。
その際には、納体袋にご遺体を入れた後、防護具・手袋を脱ぎ、手指消毒してから納体袋の外側を拭き上げ、また防護具を着用して棺に納め、防護具を脱いで棺外側を拭く。3.遺体の管理から火葬まで
葬儀会社に引き継ぐ。
一般的には、以下のようなルールで遺体が取り扱われている。
①医療機関にて遺体を遺体収納袋に密閉する。
②医療機関から火葬場まで直接棺を搬送する。
③棺の搬送に当たっては、葬儀会社の社員がマスク・グローブ・長袖ガウン・ゴーグルを装着して行う。
③火葬が終わるまで棺は開けない。遺体にも触らない。
④火葬に立ち会えるのは葬儀会社社員含め5名程度まで。
⑤火葬は同日の最終枠で行う。
新型コロナで死亡した入院患者は、家族と再開することなく火葬され、家族の手元に戻るのは骨壺の中に入ってからとなる。この遺体取り扱いのルールには、法的根拠はなく、火葬場を管轄する自治体等からの通達に基づく。
新型コロナで亡くなった患者も、適切な死後処理が行われた状況であれば、飛沫やエアロゾルが発生することはなく、遺体収納袋に密閉する必然性はない。体液の漏出による接触感染は生じる可能性はあるが、棺の内側を防水加工(耐水素材によるシールなど)をすれば、遺体を直接触らない限りは感染は生じえない。
過度に遺体からの感染を恐れる医学的合理性のない遺体の取り扱いは、差別的であり、故人の尊厳を踏みにじるもので、本来の葬祭の意図と相容れない。
現状、一類感染症に準じて対応されているが、この対応が非合理であることを関係当局に申し入れているところである。
厚生労働省からは、グローブをしていれば、遺族が遺体に面会すること、遺体に触れること、臨終の場に立ち会うことを禁止していないと回答を得ている。
一部、過剰な対応をしている火葬場については、これから対応をするとのことである。
現状では、非常に残念ながら、家族には納棺後は会えない可能性が高いをあらかじめ説明しておく必要がある。
3.葬儀
三密を防ぐという観点からは、大規模な葬祭の開催は推奨できないことを、死後対応のプロセスの中で伝えておく。
どうしても葬祭を開催したい場合には、非公式のお別れの会などを感染収束後に開催することを提案する。
- メンタルケア
POINT
●この時期に心のバランスを崩すことは決しておかしなことではない。●人間は多面的な存在、心の問題を扱う際には、専門的医学的対応のみならず、さまざまなレベル・セクタでの対応が必要になる。
●新型コロナに感染してしまった人には、非難ではなく心身のサポートを。
●このような状況下では、社会的に弱い立場の人たちがより大きな悪影響を受ける。
はじめに
まず声を大にしてお伝えしたいのは、この時期に心のバランスを崩す事は決しておかしなことではないということです。周到な準備が出来ている人は誰一人としていません。
先の見えない中での自己不全感、外出制限、経済的困窮、過労、死の恐怖、親族の急な喪失体験とその後適切に別れを告げられないこと、それぞれの立場に降りかかる様々な要因によって老若男女問わず皆が孤独、抑うつ、不安、ストレス症状を呈し、心のバランスを崩しやすいタイミングです。
精神的な問題への対策を考える際に、どうしても視点が医療に偏りがちになってしまいます。しかしそもそも人というものは多面的な側面を持った存在であり、問題解決のアプローチは決して医療的な側面のみではありません。
例えば、病院などといった最前線で働く女性看護師は
・子を愛する存在であり
・パートナーを愛する存在であり
・高齢の親を抱える存在であり
・組織の一員であり
・地域社会の一員でもあります
そして、感染してしまう当事者としての側面もあります。こうした多面的な存在である点から、心の問題を扱う際には専門的な医学的対応のみならず、セルフケア、親族や友人間におけるお互いの労り、組織レベル、更にはコミュニティーレベル・行政レベルでの対応が必要になってきます。
こうした意味からも精神的問題に対するアプローチは、第一防衛線:「生命を守る」自宅や施設に感染症を持ち込まない・拡げない段階から始まり、第二防衛線:「生活を守る」感染した在宅患者を必要に応じて自宅・施設で安全に支援できる状態を支援し、第三防衛線:「尊厳を守る」最期まで生活の場所で過ごしたいという人が、苦痛や不安なく過ごすために寄り添う物でなければなりません。
不幸にも新型コロナウイルスに感染してしまった人たちは、決して何か間違ったことをしたわけではなく心身へのサポートが必要であり、私たちは他者への共感や労りの気持ちを忘れてはなりません。
更に、社会的に弱い立場に置かれている人たちは、こうした社会全体におけるリスクの悪影響をより大きく受ける下地があります。
ここでは一連の危機的状況に対して、国際機関や日本の医療機関・学会・行政などで一般的にどのようなアドバイスがなされているかを多数ご紹介いたします。辞書的な扱いをして頂けばと存じます。
更には特別な注意を必要とする可能性が高い人
●訪問診療の適応となる高齢者、健康上の問題や、障がいを持った人に対する心のケア
●新型コロナウイルスの対応をする医療介護職の心のケア
●子供たちの心のケアについて現状で各専門機関がどのようなアドバイスを行っているのかご紹介します。
総論
WHOや米国CDCは新型コロナウイルスによるストレス対策を公表しています。他様々なソースがありますが、概ねどれも以下の点を指摘しています。
1.家族や友人とのコミュニケーションの重要性・感情の共有。現状では誰しもが心に負担を感じる状態であり、それ自体はおかしなことではないという認識を持つことが大切。2.セルフケアの重要性。食事・睡眠・運動・他者との繋がり、といった健康的な生活習慣の維持。自分のストレスのはけ口として、喫煙、飲酒、他薬物を使用しない。趣味や家事などにあえて没頭する。自分なりのストレス発散方法を検討する。ルーチンを作り、生活にメリハリを持たせる。
3.情報の制限。過度に不安を煽るメディアの情報の摂取を制限し、信頼できるソースからの情報のみを得るようにする。
日本においても様々な組織が新型コロナウイルスによるストレス対策を公表しています。例えば、日本精神神経学会が新型コロナウイルスによる精神的問題への対策情報をまとめています。
この中で日本赤十字社が公表している「感染症流行期にこころの健康を保つために」シリーズは非常に優れた内容です。
また厚生労働省が運営する「こころの耳」というウェブサイト内において、新型コロナウイルスによる精神的諸問題の対策として相談窓口を複数掲載されています。中にはチャット形式で相談できるサービス(新型コロナウイルス感染症関連SNS心の相談)も紹介されています。
一般社団法人日本公認心理士協会では「新型コロナこころの健康相談電話」を開設しています(2020年4月30日の時点で5月22日までの開設予定)。
更に、国立精神・神経医療研究センターが運営している『ストレス・災害時こころの支援研究センター』において、災害(感染の蔓延も含む)時に当事者や支援者がどのように対応すべきかについて様々な情報が発信されています。(【一般の方へ】【支援者の方へ】【心のケア・Web講座】は要チェックです。)
PFA(Psychological First Aid: 心理的応急処置)
目の前で苦しんでいる方々への支援方法として大切な概念が『PFA(Psychological First Aid: 心理的応急処置)』です。
PFAとは、
『危機的な出来事に見舞われて、苦しんでいる人の心理的回復を支えるための、人道的、支持的、かつ実際の役に立つ様々な支援をまとめたものです。心理的(サイコロジカル)という言葉を使っていますが、社会的生活をささえるための支援も含まれています。また、災害弱者や支援者自身のケアもできるように工夫されています。(ストレス・災害時こころの支援研究センターwebサイト”PFAとは”より一部引用)』
といったものです。PFAの行動原則は3つ。「見る(LOOK)、聞く(LISTEN)、つなぐ(LINK)」です。状況を的確に判断し(LOOK)、助けが必要な人の話を求められれば聞き(LISTEN)、必要なサービスや支援につなぐ(LINK)事を意図しています。
PFAでとても大切なことは、「辛い体験したことを話すように無理強いしない」という姿勢です。無言で寄り添うことも大切なケアであり、支援する側の価値判断を押し付けることも控えねばなりません。
ストレス・災害時こころの支援研究センターウェブサイトからWHOによるPFA(日本語盤)をダウンロード出来ます。(60ページ強あり、量が多いですが一度目を通しておくことは大切な事だと思います。最後にポケットガイドがあるので、忙しい方はそこだけでも目を通してみて下さい。)
先ほどご紹介した日本赤十字社も、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)が独自に作成したPFAを新型コロナウイルスにおける行動原則として紹介しています(IFRCのPFA邦訳版)。
また、子供に特化して兵庫県こころのケアセンターウェブサイトから、アメリカ国立PTSDセンターと、アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワークが開発したPFAの日本語盤がダウンロード出来ます。
このように世界中で新型コロナウイルスによる心の問題に対して積極的に対応しようとしていることがわかります。
本論
現在新型コロナウイルスの蔓延とそれに伴う行動制限の最中で、当たり前の日常生活がおくれず多くの方が、不安、抑うつ、孤独、不眠、そしてストレスからなんとなく不調といった症状を抱えています。それらは非常に複合的な要因からなり、人によって原因は異なります。
不安(の例)・全般的に漠然と不安を感じる
・仕事はどうなるのだろう?
・給料は出るのだろうか?
・自分や家族が感染したらどうしよう?
・パートナーのイライラにはどのように対応したらいいの?
・死ぬのが怖い
・食事や薬にアクセスできるのだろうか?
・自分が感染したら誰が親の面倒をみる?
・ヘルパーが急に来てくれなくなったらどうしよう?
・デイにいけなくなったらどうしよう?
・医療資源は足りているのだろうか?
・組織(会社)が自分の事を守ってくれるのだろうか?
・パニック発作・障がいが再発・増悪したらどうしよう?・誰にも相談できない。
抑うつ(の例)
・状況を自分でコントロールできない
・いつまで行動制限がつづくのか?
・仕事をクビになった
・死ぬのが怖い
・大切な家族を突然失った
・ちゃんと看取ってあげられなかった
・皆のための働いているのに差別された
・自分のせいで子供が差別を受けている
・うつが再発・増悪したらどうしよう?孤独(の例)
・友達に会いたい。学校に行きたい
・家族が会いに来てくれなくなった
・パソコンを買うお金がない
・楽しみにしていた外出が制限された
・「インターネットで・・・」と人は言うけど使い方がわからない
・誰に相談したらいいのかわからないこのように立場によって相当視点が異なります。
以下特別な注意を必要とする可能性が高い人
・訪問診療の適応となる高齢者、健康上の問題や、障がいを持った人に対する心のケア
・新型コロナウイルスの対応をする医療介護職の心のケア
・子供たちの心のケアについて順番に考えていきましょう。
【在宅高齢者、健康上の問題や、障がいを持った人に対する心のケア】
訪問診療は通常通院が困難な方に提供されるものであり、対象となる多くの方が医療以外にも何かのサービスを使った生活をもともとおくっています。
例えば高齢者を例にとってみると、感染の蔓延および行動制限に伴い、次のようなことが問題となってきます。
《問題点》
1.主介護者が感染した場合のプランがない
2.サービスの継続と社会的距離戦略の間の葛藤
3.フレイルの進行
4.孤独・孤立
5.低栄養
6.慢性疾患の増悪の可能性
7.アドヒアランスの維持・管理
8.視聴覚障がいに伴う情報不足
9.認知機能低下・障がいに伴う情報不足および不適切な対応
10.マスメディアからの誤った情報の摂取
11.著しい死の恐怖。自分自身の存在への疑問《対応策》
WHOは以下の点を推奨しています。
1.感染蔓延や行動制限といった環境下で、高齢者、特に孤立や認知機能低下・認知機能障がいの状態にある高齢者は、不安、易怒性、ストレス反応、焦燥、閉じこもり、といった反応を起こしやすく、家族や医療従事者による実用的かつ心通ったコミュニケーションを提供しましょう2.高齢者(認知機能障害の有無によらず)が理解できる言葉を用いて、どうやって感染のリスクを減らすのか明確な情報を簡素な形で共有しましょう。必要時何度も説明しましょう。説明は、はっきりと・簡潔に・敬意を払いつつ・辛抱強く伝えましょう。文字や図で情報を伝えることが有効な場合もあります。家族や他ケアスタッフも高齢者に対する必要な情報と予防的措置の提供に積極的に関わって貰いましょう。
3.既往がある場合、現在使用している医療資源にアクセス出来るように注意しましょう。必要時周りに助けを求めましょう。
4.必要な時に、タクシーの手配の仕方・食料の配送・医療の手配といった実用的な援助を、どこでどのように得ることができるのか事前に準備して知っておきましょう。
5.行動制限や孤立の状態下でも、自宅の中で毎日できる簡単な運動を学びましょう。そうすることで活動性を維持し、退屈を減らせます。
6.できるだけ普段のルーチンを維持しましょう。もしくは、こうした環境下における新しいルーチンを作りましょう。例えば定期的な運動・掃除・家事・歌唱・絵画や他のアクティビティなど。大切な家族や友人との連絡を取り続けましょう。(電話・e-mail、SNSなどで)内容としては総論で書かれているアドバイスとかなり共通していますが、情報を明確に、簡潔に、必要時辛抱強く何度も伝えるという姿勢が必要である点を再度認識しておきましょう。更には相手の尊厳を守り、敬意をもって接する事こと忘れてはなりません。
再度日本赤十字社による高齢者や基礎疾患のある方とそのご家族に対する対応をシェアします。
「高齢者や基礎疾患のある方・ご家族の方へ」他にも、もともと精神的諸問題を抱えた方々の中には、現状の感染蔓延・行動制限の中で非常に辛い生活をおくっておられる方がいます。
例えば
・うつ病の増悪・再発
・不安障害の増悪・再発
・様々な制約がかかる中での摂食障害の管理
・精神科デイケア中止に伴う生活の変化・繋がりの喪失地域社会が関りを持つことで孤立化を最大限避けなければなりません。医療の専門職でなくともボランティア活動などで貢献することは可能です。しかし現状感染回避のためにボランティア活動の多くが自粛となっています。新型コロナウイルス対応が長期化することが間違いない状況の中で、行政とともに新たなルール作りが必要です。ICTを使った傾聴ボランティア活動などは早期に実現できるのはないでしょうか?
<再掲>
厚生労働省が運営する「こころの耳」というウェブサイト内において、新型コロナウイルスによる精神的諸問題の対策として相談窓口を複数掲載されています。中にはチャット形式で相談できるサービス(新型コロナウイルス感染症関連SNS心の相談)も紹介されています。一般社団法人日本公認心理士協会では「新型コロナこころの健康相談電話」を開設しています(2020年4月30日の時点で5月22日までの開設予定)
【新型コロナウイルスの対応をする医療介護職への心のケア】
一般的に、感染管理に伴う行動制限が心身に悪影響であることは報告されています(文献1)。更に医師・看護師に限らず、現在最前線で新型コロナウイルスと戦っている医療・介護従事者が沢山います。医療崩壊の危険性が叫ばれる中、過労とそれによる精神的悪影響について報告されています(文献2)。
しかし新型コロナウイルスの対応が長期化する見通しが出てきた中で、医療・介護従事者が長期に渡って心の不調をきたす可能性がある点を強調しておかねばなりません。感染の世界的蔓延という状況自体が稀なために報告自体が少ないですが、カナダにおける2003年のSARSのアウトブレイクの1~2年後も医療従事者が、燃え尽き症候群・心の不調・心的外傷後ストレスが継続したという報告があります(文献3)。
支援者に対して『無理をしてはならない』というメッセージを伝え続けなければなりません。
他の立場の人と同様に医療従事者の状況も複合的な要因です。
・組織の一員としての立場
・治療を行う人としての立場
・感染当事者になるかもしれないという立場
・家族の一員としての立場
・社会の一員としての立場こうした中で様々な問題が生じてきます。
《問題点》
・医療資源の不足
・マンパワー不足
・医療やケアの理想と現実とのギャップに対する葛藤
・情報の不透明性(トップダウンの意思決定の弊害)
・周囲(組織内外)からの孤立・差別
・職場に対する不満
・家族の無理解
・家族に対する罪悪感
・自分および家族の感染の恐怖
《対応策》
WHOは以下の点を推奨しています。
1.セルフケアの重要性(無理はしない)
2.長期戦である事を認識する。(マラソンであり、短距離走ではない)
3.こうした状況下でストレスやそれに付随した感情を持つことは決して決して仕事をする能力がないという事ではなく、あなたが弱いということでもない、ということを理解する。
4.人によっては不幸にも家族や周囲の人から避けられたり、差別されたりしたかもしれません。こうした経験は既に困難な状況を更に悪化させます。出来る限り親しい友人・家族との繋がりを持ち続けましょう。同僚・上司・他信頼できる人を頼り、支援を求めましょう。
5.職場管理職の方は、すべての職員を慢性的なストレスとメンタルヘルス問題から守ってあげましょう。そうすることでより良く職務を遂行することができます。
6.職場管理職の方は、職員とのコミュニケーションをしっかりととり、透明性があり、正確な情報の更新をすべての職員に確実に行いましょう。
7.職場管理職の方は、職員のストレス負荷の高い職場と低い職場のローテーションを検討しましょう。
8.経験豊かな職員と、不慣れな職員との間でチームを組みましょう。こうしたバディシステムは、必要な支援の提供・ストレスのモニタリング・安全措置を増強します。
9・職場管理職の方は、職員が適切に休憩を取れるように手配し、休憩を取るように職員に促し、休息をとっているかモニタリングしましょう。
10.職場管理職の方は、職員本人が何かストレスのかかる出来事に見舞われた際や、職員の家族に何かストレスのかかる出来事が起きた際に、業務に柔軟性を持たせるように手配しましょう。
11.職場管理職の方は、職員が精神的なサポートをどこで・どのように受けることができるのか把握してもらうことを確実にしましょう。そして、そうしたサービスへ誘導しましょう。
12.職場管理職やチームリーダーは職員と同様かそれ以上のストレスを経験しているかもしれません。先に書いた項目を職員および管理職ともに実施することが大切です。ストレスを和らげるためのセルフケア戦略を管理職・マネージャー自らが率先してロールモデルとなりましょう。
また、日本赤十字社は職員を対象にマニュアルを作成しています。【一括版】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応する職員のためのサポートガイド.pdf
感染当事者、同僚・家族・知人、上司、施設管理者といった複数の視点から非常に大切なアドバイスを提供してくれています。是非ご一読ください。
【子供たちの心のケア】
子供たちは大人と同じようなストレス反応を呈することもありますが、子供に特有のストレス反応もみられます。
例えば
・幼児の赤ちゃん返り
・「自分せいだ」という強い気持ちを抱く
・反抗的な態度や行動に走るこうした点について保護者のみならず、支援者も適切な知識を得ておく必要があります。
日本小児科学会が発表している新型コロナウイルスにおける親子間のストレスマネジメント方法は非常に参考になります。特に親の子供への接し方について言及されている点は非常に重要な視点です。他にも「留守番をする子供の安全を守るために出来る事」「普段と異なる状況下における子どもの安心・安全のために」といったとても有用なコンテンツを公開しています。また、学会として医療的ケア児に対する支援情報も随時更新されています。
また、新型コロナウイルスと子供のストレスについて、国立研究開発法人 国立成育医療研究センターも情報を提供しています。親としての心構え、子供のストレス反応の解説など非常に役立つ情報が満載です。
また、一般社団法人日本自閉症協会における『新型コロナウイルスに関する情報掲示板』もお困りなかたにとって必要な情報が集まっています
発達障害・情報支援センターにおいては、発達障害等のある方やそのご家族に向けて、予防・拡大防止のためのチラシを作成しています。非常にわかりやすい内容になっています。
子供の抱える心の問題は、一緒に過ごす家族の影響を多分に受けます。保護者としてどのように対応するべきかこうしたリソースを活用しましょう。<再掲>
また、子供に特化して兵庫県こころのケアセンターウェブサイトから、アメリカ国立PTSDセンターと、アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワークが開発したPFAの日本語盤がダウンロード出来ます。※文責 悠翔会精神科 中野輝基※
情報は随時更新していきます。
【参考資料】 掲載順
Mental health and psychosocial considerations during the COVID-19 outbreak
Brooks SK, Webster RK, Smith LE, et al. The psychological impact of quarantine and how to reduce it: rapid review of the evidence. Lancet. 2020;395(10227):912‐920. doi:10.1016/S0140-6736(20)30460-8
Lai J, Ma S, Wang Y, et al. Factors Associated With Mental Health Outcomes Among Health Care Workers Exposed to Coronavirus Disease 2019. JAMA Netw Open. 2020;3(3):e203976. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.3976
Maunder RG, Lancee WJ, Balderson KE, et al. Long-term psychological and occupational effects of providing hospital healthcare during SARS outbreak. Emerg Infect Dis. 2006;12(12):1924‐1932. doi:10.3201/eid1212.060584
日本小児科学会「留守番をする子供の安全を守るために出来る事」
日本小児科学会「普段と異なる状況下における子どもの安心・安全のために」
日本小児科学会 在宅療養児介護者のCOVID-19感染判明時等の支援について
- 新型コロナと経営の考え方POINT●新型コロナの感染拡大に伴い受診回数(訪問回数)が減少し、診療収入も減少する。●診療収入の落ち込みに対する行動計画が必要である。●新型コロナは、医療者にも患者にも、これまでの医療のあり方を考えさせる大きな機会。●新型コロナ時代は年単位で続く。しかし待っていても元の時代には戻らない。●新しい時代に最適化した医療をつくる。
診療収入の落ち込みに備える
悠翔会では、患者の病状安定性に基づき、診療頻度の最適化を進めてきた。安定している患者については月1回の訪問で医学管理を行っている。
しかし、新型コロナの感染拡大に伴い、医療職の訪問による感染症の持ち込みを恐れる患者・施設からの診療の差し控えが増える可能性がある。
また、医師をはじめとする診療チームメンバーが感染または濃厚接触者になれば、1~2週間は訪問診療を停止せざるを得ない。
療養支援計画通りに訪問が行えない場合、診療収入は患者あたりで平均約35%減少する。
悠翔会では、現在の診療収入水準に基づき、診療チーム・バックアップ体制の強化を行ってきた。減収の長期化はチーム運営を不安定にする。診療体制を維持するためには、減収への対応を準備しておく必要がある。
具体的な行動計画は以下の通り。
【短期計画:2か月以内】
①必要な感染防御資材を確保する。
●診療チームが安心して使命を果たせるよう、必要な感染防御資材の確保を確実に行い、その時々の状況に応じた最適な感染防御ができる状況を保証する。
●患者を守るためには、患者・家族および関わるチームメンバーも最適な感染防御ができるよう、必要な知識とスキルとともに、担当する患者の在宅療養支援の継続に必要な感染防御資材を提供できるようにする。
②クリニック間の支援体制を作る
●特に医師の体調不良や濃厚接触などによる出勤停止により、クリニック単体での診療運営が困難になる状況が予想される。隔離期間は最短でも7日間。うち5日間は平日となる。この5日間については、隣接するクリニック間にて支援(往診および不安定患者の訪問診療の代診)を行えるようにしておく。日頃からエリア単位で、相互バックアップ体制について話し合い、準備しておく。
●また悠翔会は、地域のソロプラクティスの在宅療養支援診療所と連携している。連携クリニックの唯一の常勤医師が出勤停止となれば、クリニックを休診とせざるを得ず、管理患者の24時間体制の医学管理が継続できなくなる。連携クリニックにおいて医師の出勤停止が生じた場合には、隣接するクリニックおよび法人全体でバックアップできるよう、あらかじめシミュレーションしておく。
③法人全体でバックアップ医師を確保する
●もし隔離期間が8日間を超えて延長する場合、当該クリニック単体はもちろん、隣接するクリニックからの支援体制に依存することは、エリア全体の負担を増強させる。7日を超えて医師の出勤停止が続く場合には、法人全体でのバックアップにシフトする。
●法人全体で、各曜日1人ずつは常勤医師(管理医師レベル)が待機できるよう診療シフトを組む。いずれかのクリニックで医師の欠員が生じたときには、待機医師が、その診療シフトをそのまま引き継ぐ。
●7日以下の隔離期間であっても、隣接するクリニックからの支援が困難な場合には、法人全体のバックアップ医師が同様に診療支援を行う。
④医師の在宅勤務を可能にする
●体調不良を伴わない隔離期間(回復後の72時間・濃厚接触またはその疑いによる14日間の隔離期間)については、在宅勤務を可能にする。
●具体的にはオンライン診療・電話再診の対応、病診連携、病歴整理や書類作成など。要件を満たした場合には通常勤務扱いとする。
⑤積極的な情報発信を行う
●安全なコミュニティを維持するため、地域全体に対する新型コロナウイルス感染予防についての啓発活動に積極的に取り組む。
●新型コロナウイルスについての正しい情報と地域での取り組みを継続的に発信し、感染・濃厚接触した患者・家族および介護事業所・法人職員に対する差別や風評被害を抑制する。
●特に新型コロナウイルス対応は迅速性が求められる。よりリアルタイムかつ効果的な情報発信のために、住所・電話番号以外の連絡手段として、メールやSNSを活用できるよう体制を整える。
●関係当局に対し、データに基づいて、合理的かつ社会的に許容されうる激変緩和措置を提案する。
【中期計画:半年以内】
⑥在宅患者数を増やす
在宅医療に特化した医療機関としては、収入を回復するためには患者数を増やす以外の選択はない。新型コロナの感染拡大は、要介護高齢者にとって、外来通院から在宅医療にシフトする契機となりうる。訪問診療回数の減少分は、新規患者の受け入れにあてることができる。それぞれの地域のニーズにしっかりと応え、積極的に患者紹介を受け入れ、できるだけ速やかに診療稼働率を回復する。
必要以上の医療介入を行い、患者単価を高める方向にはシフトしないこと!
診療稼働率の回復に半年の時間がかかる場合には、新しい常態に最適な役員報酬(管理医師の賞与・給与を含む)について、院長会にて話し合う。
⑦新しいチーム運営体制を構築する
基本的には人員整理は行わないこと、役員以外の職員の給与水準を下げないことを前提に、チームの運営体制の改善を進める。生産性(=時間・診療報酬あたりの患者価値)を最大化することを改善の目標とすることで、中長期的により柔軟かつ筋肉質な運営体制の構築を目指す。
1.医師と看護師が同行するという前提を見直す。医師と看護師が個別に行動できる体制をつくり、患者により細やかなケアを提供できるようにする。
2.医師の診療外業務のタスクシフトをさらに積極的に進める。特にカルテ入力や書類作成など。
3.診療支援業務のタスクシェアをさらに積極的に進める。
4.在宅勤務を前提とした業務整理を行う。
5.上記のために必要なシステム投資を行う。
⑧診療サービスの質をさらに改善する
地域のニーズ・患者のニーズにしっかり応えられるよう、すでに明確になっている課題解決に計画的に取り組む。
1.夜間帯の医師の電話対応の質の向上
2.朝夕の引継ぎ時間帯の緊急対応の迅速性
3.より安定的なリクルーティング
4.さらなるペーパーレス化・情報共有の効率化
5.より迅速・スムースな紹介対応・新規患者受け入れ
6.患者説明資料の改善
⑨資金調達を行う
在宅患者数が増加し、診療収入が回復するまでの期間のキャッシュフローの確保および生産性向上のための投資を目的とした資金調達を行う。
新しい時代の医療をつくる
短期・中期的には、在宅医療という仕事に対し、質的改善と量的回復を目指していく。しかし、長期的には現在の延長線上に必ずしも明るい未来はない。
新型コロナをきっかけに、医療は、これまでの「専門家による施し」から、患者と医療者が対等な立場で、ともに最適を探る形へと変化しつつある。
悠翔会は「患者のニーズが最優先」という基本的価値観の共有に基づき、自らを「人を幸せにするための人間集団」と定義してきた。そして、在宅医療という手段を用いて、治らない病気や障害とともに生きる人々が「安心できる生活」「納得できる人生」を取り戻せるよう支援すること、そして超高齢化・重老齢化が進む首都圏を、最期まで安心して暮らし続けられる地域にすることが、私たちの使命だ。
地域や患者の医療に対する意識が変化する中で、そして社会保障財源が厳しさを増す中で、在宅医療はどうあるべきなのか。
既存の成功事例を探すのではなく、一人ひとりが地域とのインターフェイスとなり、変わり続ける社会のニーズをしっかりキャッチできること、そして自らも変わり続ける意欲を持ち続けることが何よりも重要だ。
自分たちの頭で考えて、主体的に行動できる。
制度にただ従うのではなく、必要なものを必要な人にしっかりと届ける。
新しい時代の医療のカタチを共に追い求めていこう。
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