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住宅や施設で急変した時どうするか?不要な搬送を減らせるか?

第3回 日本在宅救急医学会学術集会のシンポジウムに登壇して

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僕は、救急搬送や入院を減らすことは、訪問診療の重要な使命の1つだと考えている。

なるべく入院せず、できるだけ自宅で生活ができること。その延長線上に、在宅での看取りというものがある。

これは、患者のQOLのみならず、救急医療システムという医療資源を守るという意味でも、非常に重要なことだと思う。

首都圏は人口密集地帯。東京23区は半径16キロ圏内に100万人の後期高齢者が暮らす。患者の多様なニーズに対応し、この地域を24時間守り続けるためには、「チーム在宅医療」が必要だと考えた。

医療法人社団悠翔会は、患者・家族と主治医の信頼関係を基軸に、専門医や多職種が必要に応じて主治医の診療を支援し、休日夜間対応チームが、主治医の対応できない時間外をカバーする仕組みになっている。

現在、首都圏に12クリニック、70名の医師たちと100名を超えるコメディカルがチームで常時4500人の在宅患者の在宅療養支援を担当している。

僕らが在宅で診させていただいている高齢者は、治らない病気や障害とともに、人生の最終段階に近いところを生きている。心身ともに脆弱で、入院のリスクが非常に高い。

そして入院すると、身体機能・認知機能がともに低下してしまう(入院関連機能障害)。その主たる要因は、環境変化のストレス(リロケーションダメージ)と、安易な食事制限・動作制限による医原性のサルコペニア。高齢者にとっては、入院そのものがリスクでもあるのだ。

悠翔会の在宅高齢者の緊急入院を調べてみた。

すると、約30%が肺炎、約15%が骨折によるものだった(残りはその他の感染症(10%)および原疾患の進行・増悪)。

肺炎で入院した高齢者について調べてみると、入院中に約30%が死亡、退院できた人たちは平均で要介護度が1.7悪化していた。骨折で入院した高齢者についても、やはり10%弱が入院中に死亡、退院できた人たちは平均で要介護度が1.5悪化していた。

多くの患者や家族は「何かのときは入院できれば安心」という。確かに入院しなければ治療できない病気もある。しかし、入院には死亡や要介護度悪化というリスクを伴う。実際、多くの高齢者はフレイル以降、骨折や肺炎など、さまざまな病気を繰り返し、病気そのもの、あるいは病気の治療のための入院により、徐々に心身の機能を低下させていく。そして、最期は病院で治療を受けながら亡くなっている。

「何かあったら病院へ」ではなく「病院に行かなくても済むようにする」ことが大切なのだ。

つまり、予防医学だ。

●在宅医療における「予防」

僕は在宅医療における予防には4つあると考えている。

①一次予防:発症予防

つまり、肺炎や骨折を起こさないこと。

むせるので食形態を落とす、とか、転ぶと危ないから歩かせない、などの日常生活の制限は、短期的にはリスクヘッジになるかもしれないが、中長期的にはリスクが大きくなる危険がある。栄養ケア、口腔機能ケア、そしてリハビリを中心に取り組むべきだ。

②二次予防:早期発見・早期治療

早めに見つけて、入院が必要になるほど重症化する前に治療してしまうこと。

高齢者の肺炎は症状が出にくく、非典型的だ。熱が出ない人、咳や痰が出ない人も少なくない。「いつもと何か違う」という直観が、実は病気に気づくきっかけになることもある。

早期発見のためには、ささいなことでも気軽に相談し合える、ケアチーム内の良好な関係性が重要になる。

③三次予防:早期退院

高齢者は10日間の入院で、7年分の骨格筋を失うという報告もある。入院による機能低下を防ぐためには、1日も早く地域に戻せることが重要になる。

病院側と在宅側が、入院時から退院を見据えた情報共有を行い、治療のゴールを明確にしておくこと。そして、退院をスムースに受け入れられる在宅環境を整えておくこと。

④四次予防?:ACP

人生が最終段階に近づくと、治療をしてもしなくても残された時間はそんなに変わらない、という時期が訪れる。そのような状況において、残り時間を延ばすために積極的に治療をしていくのか、それとも、残り時間をその人の優先順位に応じて過ごすのか、あらかじめ考えておくことで、望まぬ入院を強いられることは少なくなる。

悠翔会では2018年、14181件の緊急対応をしている。

うち、7627件は電話再診(電話のみで対応が終了)、6555件は往診で対応した。

緊急入院は1842件。患者・家族が相談なく救急要請したケースは10件未満、多くは担当医の判断によるものであった(約半数は電話にて、約半数は往診時の判断)。

ちなみに、緊急対応した14181件というのは、東京消防庁の後期高齢者の救急搬送件数の約5.5%に相当、往診した6555件というのは、都立6病院の年間緊急対応件数の約3割に相当する。在宅医療が機能することで、一定の救急医療システムへの負担軽減になっていることは明らかであると思う。

●緊急対応件数の減少

悠翔会では毎年、担当在宅患者数が増えている。

では、緊急対応件数も、それに比例して増えているのかというと、実は減ってきている。

2018年の平均管理患者数は、その前年よりも400人多かったが、緊急対応件数は約3000件少なくなっている(2017年の緊急対応件数は17207件)。

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その理由は、レスキューオーダーとACPをしっかりと行っていることにあると思う。

レスキューオーダーとは、予期される体調変化に対し、あらかじめ対応を準備しておくこと。何が起こりうるのか、ということを、患者や家族、ケアチーム内で共有し、必要な薬剤や衛生材料を自宅に配備しておけば、何かあった時にセルフケアが可能になる。

「急変」とは、「予期せぬ体調変化」である、と仮定するのであれば、予測可能なものはそもそも急変とは言わないのかもしれない。つまり、レスキューオーダーによって、急変そのものを減らしてしまう、ということだ。

ACPがきちんと行われていれば、病院の受診を希望しない場合、それを納得して選択できる(もちろん受診を希望するのであれば、受診を選択すればよい)。

●入院の減少

急変が減れば、当然、入院も減る。

僕らが訪問診療を担当させていただいている在宅高齢者は、訪問診療開始前の1年間に平均約42日入院している。一方、僕らの訪問診療中の患者の平均入院日数は10.6日。つまり、一人あたり約30日、入院を削減できていることになる。

入院を減らしている要素は、レスキューオーダーやACPだけではない。

往診の対応力も重要になると思う。24時間体制で患家からのSOSに迅速に対応し、迅速に状況判断し、必要に応じて在宅で治療を行える仕組みを僕らは持っている。

そして、入院が必要と判断される前に治療を開始できれば、入院しなくてもある程度安全に治療ができる。

僕らの休日夜間対応チームは優秀だ。

休日夜間に関して言えば、コールを受けてから、平均38分で患者宅に到着、診療を開始できている。これは、救急車を要請し、病院を受診し、実際に診察を受けるまでの平均時間よりも短いと座長の先生から教えていただいた。

もちろん、在宅医だけが頑張っても入院を減らすことはできない。

午前中のシンポジウムに登壇した悠翔会の井上医師からは、回避が可能な入院が、まだ46%もあること、そしてこれらのケースにおいて、入院が回避できなかったのは、医学的要因・医療者側要因ではなく、社会的要因・患者側要因が大きいことが示された。

地域や施設の多職種としっかりと連携し、患者が安心して療養できる、家族が落ち着いてケアできる環境を作ることが、入院が必要と判断される閾値を上げることになる。

足立区内のある特養では、施設のスタッフと在宅医(嘱託医)がしっかり連携・協働することで、年間延べ入院日数を94%も削減することができた(1707日→98日)。看取り率は100%に近づき、これは入居者満足度・職員満足度につながっている。

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●在宅医療がきちんと機能すれば、不要な搬送は減らせる。

予測可能な状況に備えることで、急変そのものを減らせる。

ACPや往診対応能力を高めることで、入院を減らせる。

そして、地域や施設の多職種と抱擁力のある在宅ケア体制を構築することで、救搬や入院が必要と判断する閾値を上げることができる。

いずれも在宅医療として当たり前のことをちゃんとやる、ということなのだと思う。

座長の益子邦洋先生はじめ救急の先生方からは、このような取り組みについて、非常に高くご評価いただけたと感じた。

一方、在宅の先生方の受け止め方は、正直、複雑だったのではないかと思う。大規模なチームだからできることで、一般的ではない。そういう「心の声」がかなり聞こえたような気がした。

しかし、大規模なチームでなければできないのは、実際には休日夜間対応チームの確保くらいだ。

主治医が患者・家族との信頼関係を基軸に、継続的・包括的な生活支援を行う。

これは患者さんとの付き合いの長い、かかりつけ医の先生方のほうが優位なはずだ。

患者さんにしてみても、これまでの経過を知り尽くしたかかりつけ医が最期まで診てくれるのがもっともハッピーな選択肢だと思うし、僕ら自身も、自分たちが地域のファーストプライオリティだとは思っていない。

それでも、悠翔会に毎月150人を超える新規のご紹介をいただけるのはなぜか。

それは、地域医療機関が十分に患者のニーズに応え切れる状況にない、ということなのではないだろうか。

僕らへの紹介患者は、もともとかかりつけ医を持たない、あるいはかかりつけ医が在宅医療に対応できないケースばかりだ。

一つでも多くの地域医療機関が在宅医療に取り組み、無理のない24時間対応の仕組みを持つ。そのためのキーは、僕はやはり診診連携による当直機能の共有だと思う。懐疑的な先生方はたくさんいる。しかし、僕らは2011年からこのテーマに取り組み、大きなトラブルもなく、副主治医として多くの患者さんたちの休日夜間対応に関わらせていただいている。実際にそんなに対応件数が多いわけではない。しかし、24時間対応が必ずしも一人でやらなくてもよい、という心理的ハードルの排除は、在宅医療を新たに始める、あるいは在宅患者の受け入れを増やす上で非常に重要な要素のはずだ。
 

かかりつけ医の強み、在宅医療専門クリニックの強み、その両者をうまく組み合わせることができれば、患者にとっても、医師にとっても、より快適な環境を作ることができるはずだと思う。

大会長の吉田雅博先生も、理事の小豆畑丈夫先生も、とにかく論文を書けとおっしゃった。「在宅救急」がきちんと機能していくためにも、まずは自分たちの取り組みをきちんとした形で検証していこうと思う。

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