在宅医療の対象患者さんは大きく2つに分かれると思います。
1つは、老年症候群を中心として徐々に衰弱し、自宅で最期まで穏やかに過ごせるグループ。
療養環境によっては介護上の課題が発生することはあるかもしれませんが、医療的な依存度は低く、緊急対応もほとんど必要としません(あったとしても訪問看護で対応できるものが多い)。
もう1つは、終末期の悪性腫瘍や心不全、難病などの療養支援。
専門的な医療を必要とするケースが多く、療養支援上もケアマネや訪問看護、訪問薬剤師との情報共有を密に行っていく必要があります。休日夜間の緊急対応の頻度も高くなります。
前者の在宅療養支援は、外来診療が中心のドクターでも、週に半日でも訪問診療の枠を確保できれば、十分に対応できると思います。患者さんもご家族も、これまでの主治医が最期まで診察してくれることは何よりも心強いでしょう。
一方、後者の在宅療養支援は、外来との両立は容易ではなく、休日・夜間の重装備の対応も求められます。人工呼吸器の管理や注射によるオピオイド投与など、適切に対応できなければ患者さんが不利益を被る可能性もあります。在宅医療専門のクリニックが診療を担当することが望ましいケースもあるかもしれません。
同時に人口あたりの介護施設(特養・老健・療養病床)は不足が顕在化しており、在宅での医療介護対応力が求められています。
「看取り難民」を出さないためには、地域の医療機関が一体となってこの問題に取り組んでいく必要があると思います。
「医師不足」については、それぞれの2次医療圏の75歳以上の「医療需要」の伸びに応じて評価。医療需要に2010年から30年までの後期高齢者の増加率をあてはめている。その結果、最悪となったのは埼玉県の「春日部市、草加市及び周辺部」の250%で、続いて「千葉市」の246%、「相模原市」の236%となった。いわゆる首都圏のベッドタウンが最も危険な状態に陥ることが予想されている。
「介護難民」については、首都圏でほぼ全域が絶望的な状況。2010年の高齢者向け住居数(老人保健施設、特別養護老人ホーム、介護療養型医療施設など)を基準に、2030年の75歳以上の人口推計との比較で評価している。2010年の全国平均は、後期高齢者1000人に対し、住居数の平均は約120床となっている。これに対し、2030年時の推計で最悪となった「新宿区、中野区、杉並区」は1000人に対しわずか37床。
その中で僕が必要ではないかと感じているのは「在宅医療の機能分化」です。
かかりつけ医は、患者さんを最期まで診るのが基本だと思います。
その上で、休日夜間などかかりつけ医が一人で対応し続けるのが困難な時間帯は、必要に応じて在宅医療専門クリニックが副主治医として責任を持ってバックアップする。
専門外疾患や特殊な医療処置など、かかりつけ医が臨床的に対応できる範囲を超える患者さんは在宅医療専門クリニックが主治医を引き継ぐ。
地域のかかりつけ医と在宅医療専門クリニックがこのような役割分担ができれば、患者さんの不利益を最小化しながら、地域の在宅医療対応力・在宅看取り力を最大化することができるのではないでしょうか。
ちょうど3年前の今日、愛知県在宅療養支援診療所連絡会にて、首都圏における在宅医療専門クリニックと地域のクリニックの連携の試みについてお話をさせていただきました。
東京と名古屋で多少事業は異なれど、直面している課題には共通点が多いと感じました。特に在宅医が増えないこと、24時間対応がそのネックであることは、名古屋医師会でも喫緊の課題であるとお話されていました。
懇親会では、名古屋医師会の在宅医療担当理事・真野寿雄先生はじめ、愛知県内の医師会のトップの先生方とじっくりと意見交換をさせていただくことができました。
名古屋では、1800の医師会員が、それぞれ担当している患者、5人ずつでも訪問診療をしてくれれば、それだけで10000人近くの在宅患者を新規に受け入れができる。老年症候群がメインの患者であれば、時間外のコールにほとんど煩わされることもなく、療養支援ができるだろう。真野先生は、これを「一次在宅」と表現されていました。
自分では手に負えないケースは、在宅医療専門のドクターに依頼する(こちらは「二次在宅」)。休日夜間のバックアップは地域の訪問看護との連携、そして医師会も後方支援の仕組みを検討中とのことでした。
名古屋では大規模な在宅医療専門クリニックが医師会に入っていないところが多く、距離感を図りかねているとのことでした。医師会という地域の強力なネットワークと、在宅医療専門クリニックが連携できていない実情は、地域にとって非常に不利益な状況であるとも感じました。
私たち悠翔会も、これまでは医師会とは直接関連のないレイヤーで、在宅医療の相互支援のネットワークを構築してきました。しかし、在宅医療・在宅看取りを普及させる、という理念を実現するためには、やはり、医師会を基盤にしたプラットフォームがどうしても必要です。
超高齢社会日本の未来を明るいものにするために、まずは首都圏における24時間対応機能の共有という取り組みで、しっかりとポジティブな成果を出していきたいと思います。