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本当にPCR検査は必要か?

· メディア,オピニオン

PCR検査は増やすべきなのか?

結論から言えば「必要性の高い人には迅速に実施できる体制が必要」だが、「一般市民に対するスクリーニングや漠然とした不安に応えるための検査は増やすべきでない」。

メディアの報道は、前者のニーズと後者のデマンドを混同しており、それに影響された多くの方々から、私の発信に対してもいろいろとご意見を頂戴しています。

個別にご返答申し上げるのが難しいので、ここで整理をしたいと思います。

私は感染症や公衆衛生の専門医ではありませんが、地域医療に関わる一人の医師として、このようなスタンスでPCR検査を理解し、必要に応じて患者さんを検査にご紹介しています。専門家の方々から見て、間違いがあればご指摘いただけましたら幸いです。

【1】なぜ一般市民はPCR検査をしちゃいけないの?

もし、みなさんがPCR検査を受けて「陽性」の判定を受けた場合、実際に新型コロナに感染している確率はどのくらいになるかご存じですか?

①99%

②70%

③6.5%

答えは③。

PCR検査が陽性になったとしても、実際に新型コロナに感染している確率はわずか6.5%、つまり15人中14人は、検査結果が陽性であっても、新型コロナではない、ということになります。

逆に、新型コロナに感染しているのに検査結果が陰性になる人が30%もいます。

なぜこんなことになるのか?

知りたい方は、赤字部分をもう少しお付き合いください。

(関心のない人はとばしてください)

まずは、日本に新型コロナの患者さんがどれくらいいるのか考えてみましょう。

2020年5月10日時点の日本の感染者は延べ15847人。ここから回復した8293人、死亡した633人を減ずれば、現段階で感染状態にあるのは6921人ということになります。

しかし、専門家の中にも、実際にはこの10倍から20倍の患者がいてもおかしくないという意見もあります。多めに見積もって、仮に20倍とすると、日本には138420人の感染状態の人がいるということになります。日本の人口は1.265億人ですから、913人に1人が感染状態にある可能性がある、ということになります。

ここでは計算しやすくするために1000人に1人が感染状態であると仮定します。
つまり、日本における新型コロナの「有病率」は0.1%ということになります。

病気の人を正しく病気であると診断できる確率を「感度」、病気でない人を正しく病気でないと診断できる確率を「特異度」といいます。

新型コロナのPCR検査の場合、感度は50~70%(ここでは70%で計算)、特異度は99%程度であると想定します。

では、神奈川県の伊勢原市で市民全員にPCR検査を実施すると仮定しましょう。

伊勢原市の人口は約10万人。有病率は0.1%ですから、10万人のうち100人が感染者で、残る9万9900人は感染していないということになります。

10万人の市民全員にPCR検査を実施しました。

PCR検査の感度は70%ですから、100人の感染者のうち70人は陽性に出ます。一方、30人は陽性にはなりません。この人たちは感染しているのに検査結果は陰性なのです。

しかし、9万9900人の感染していない人も全員が検査を受けています。PCR検査の特異度は99%ですから、このうち1%(つまり999人)は病気でないにも関わらず陽性と診断されてしまうということになります。

10万人の検査を実施して、結果が陽性になるのは、実際に感染している100人のうちの70人と、感染していない9万9900人のうちの999人。合わせて1069人です。しかし、この中で実際に感染していたのは70人だけですよね。検査結果が陽性になった人のうち、わずか6.5%しか本当の感染者がいない、ということになります。

伊勢原市では、70人の感染者に加えて、実際にはコロナに感染していない999人も病院やホテルに2週間は隔離することになります。場合によってはアビガンなどの副作用の強い薬が投与されるかもしれません。そして、その家族も濃厚接触者とされ自己隔離、職場の人や友人たちも不安な思いをしなければならないかもしれません。さらに、自治体や国は、この999人分の隔離にかかる費用を負担しなければなりません。

※もし、特異度を99.9%まで高めることができたとしても、非感染者のうち0.1%、99人は陽性と診断されます。実際に感染していて陽性になる人が70人。非感染者の陽性率のほうが高くなります。
※特に感染者の多い東京でも、有病率は多く見積もっても0.3%を超えることはないと考えられます。(2020年5月10日時点での東京の感染者数4,810。回復者数はデータがありませんが、日本のデータに合わせて約50%(約2400人)が回復していると仮定。死亡者数が155ですので、現時点での感染者は概ね2250人と想定されます。この20倍とすると4.5万人。
人口が1400万なので0.03%。) この前提で計算した場合でも、検査結果が陽性に出た人の17.4%(約6人に1人)しか感染者がいない、ということになります。

つまり、PCR検査を大規模に実施すると何が起こるのか。

赤字をじっくり読んでいただいた方には、もうお分かりですよね。

一方、新型コロナに感染しているにも関わらず、検査結果が陰性に出た30%の人たちは、きっと安心して行動制限を緩め、結果として感染を拡大させてしまいます。

さらに、大規模な検査を実施することで、迅速に検査しなければならない人の検査に時間がかかってしまうかもしれません。

しかも、PCR検査は「その時点での感染状態」を調べるもの。

今がどうなのか、ということはある程度わかりますが、過去にどうであったのか、これからどうなるのかは全くわかりません。もし「感染していないことを確認したい」という安心感のために検査をするのであれば、定期的に再検査を続けなければなりません。そんなことをすれば、感染していないのに隔離されるケースが増えるばかりです。

つまり対象を選別しない広範なPCR検査は現段階では「百害あって一利なし」。

それでも大規模PCR検査にメリットがある、という方はぜひ教えてほしいです。

【2】じゃあ、なぜ医師会がPCR検査の拡大を求めたりするわけ?

それは「医師が必要と判断した人にもかかわらず検査ができない」という状況が一部地域で生じていたからです。

医師が必要と判断した場合には、速やかな治療方針の決定のためにも、PCR検査が迅速に実施できる体制を早急に整えるべきであると思いますし、現在、その体制は整いつつあると理解しています。

【3】なぜ、医師が必要と判断しないとPCR検査を受けらないの?

それは上記【1】で説明した「有病率」が関係します。

ただ心配、というだけで受診する一般市民の有病率は大きく見積もっても0.1%。

しかし、医師が必要と判断するケース(つまり過去の接触歴、症状、血液検査の結果などから医師が新型コロナが疑わしいと判断したケース)においては、当然、有病率は0.1%よりも高くなります。たとえば東京では、医師の判断に基づいてPCR検査が実施されていますが、その陽性率は7.5%。PCR検査の感度が70%ですから、実際には約10%。つまり医師が必要と判断した集団は、一般市民の約100倍もの有病率になる、ということです。

もう一度、計算してみます。

面倒な方は赤字を飛ばしてください。

有病率が10%という前提で、先ほどと同様に計算をし直してみましょう。

医師が必要と判断した1万人に検査を実施する場合、有病率は10%ですから実際に感染している人は1000人、感染していない人が9000人です。

PCR検査の感度は70%ですから、感染している1000人のうち、陽性になる人が700人、陰性になってしまう人が300人います。

一方、特異度は99%ですから、感染していない9000人のうち、99%は陰性と診断されますが、1%(90人)は感染していないにも関わらず陽性になってしまいます。

この検査で陽性と診断される人は、実際に感染している700人と感染していない90人、あわせて790人です。うち、実際に感染しているのは700人ですから、陽性と診断された人のうち、88.6%は実際の感染者ということになります。

お分かりいただけましたでしょうか。

一般市民を対象に無作為に検査をすれば、陽性者のうち6.5%しか感染者がいない。

つまり、9割以上が感染者と誤診されてしまう。

しかし、医師が選別してから検査を実施すれば、陽性者の88.6%が感染者。

つまり、非感染者を、感染者として誤診することはあまり起こらない。

これを「陽性適中率」といいます。

陽性適中率は検査前確率(つまり有病率)が高ければ高いほど、高くなるのです。

ドライブスルーでやみくもに検査をするよりも、まずは医師に相談をしてから、と言われるのは、こういうちゃんとした科学的な理由があるのです。

医師が必要と判断しなくても、検査をしたほうがよい集団も存在します。

たとえば、医療介護従事者。

たくさんの患者さんに接するので感染のリスクが高いし、自分が感染すれば多くの患者や同僚に感染させる危険があります。

それから、高齢者施設の入居者。

高齢者施設は感染爆発(アウトブレイク)が起こりやすい場所です。ヨーロッパでは新型コロナによる死者のなんと半数が介護施設に入居していた高齢者です。アメリカでも2万5千人以上の高齢者が施設で亡くなっています。特に要介護高齢者は感染すると重症化・死亡のリスクが非常に高くなります。一般には死亡率は2%前後(日本ではもっと低い)とされていますが、施設に入居している高齢者は約30%、入院した要介護高齢者はなんと70%が死亡しています。もし間違って陽性と診断されたとしても、陰性を見逃すよりはずっといいですよね。

英国インペリアルカレッジのニコラス・グラスリー教授は、研究の中で「検査は、医療介護専門職や施設入居者などのリスクの高いグループを対象とする場合に最も有用。症状のある場合に加えて定期的に実施することで、感染のリスクを25〜33%下げる」報告しています。また、地域におけるウイルス感染の防止にはあまり役立たないとも。

Weekly COVID-19 testing in healthcare and care home staff may reduce spread
by Dr Sabine L. van Elsland, Laura Gallagher 24 April 2020 Imperial College London

【4】それでも日本はPCR検査が少なすぎるでしょ?

確かにPCR検査が少ないという声が多く聞かれますが、では、どれくらい検査をすれば十分なのでしょうか。

人口10万人あたりのPCR検査の実施数をみると、日本は200件未満。イタリアやドイツが約3000件、アメリカが1800件、韓国が1200件に比べると、確かに絶対数は少ないのは明らかです。

しかし、患者一人あたりの検査数でみてみましょう。

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名古屋市立大学大学院医学研究科 鈴木貞夫教授作成資料より

どうでしょうか。

感染者・死亡者あたりの検査実施件数においては、韓国よりは少ないですが、欧米諸国よりは明らかに多いことがわかります。そして日本人がベンチマークしたがるドイツやアメリカに比べても十分な検査が実施されていることがわかります。

感染者がたくさんいるなら、当然、その診断のために、たくさんの検査が必要です。しかし、感染者がそこまで多くないのに、むやみやたらに検査をすべきでない、というのは【1】をお読みいただいたみなさんなら十分にお分かりいただけると思います。

感染者あたりのPCR検査の実施数でみれば、海外に比較しても全く遜色はありません。というよりも、むしろ日本の実施数は十分と言えるのではないでしょうか。

少なくとも感染者数が減少に転じている現時点で、検査の総件数を増やすべきという議論が起こる理由がわかりません。

日本では、クラスター(感染拡大のネットワーク)を丁寧につぶしていく、という感染拡大防止戦略をとってきました。やみくもにドライブスルーで不安な人の要求に応えるかわりに、一人の感染者が明らかになったら、その周囲の濃厚接触者をきっちりとあぶり出し、その人たちについては無症状であってもPCR検査を実施してきました。その結果、多くのクラスターが封じ込められ、大規模な感染拡大(メガクラスター化)を避けることができました。

そして現在、日本では、市中でのクラスターは目立たなくなってきています。これは人と人との接触を8割減らす、というもう1つの戦略が功を奏しているからです。

一方、病院や介護施設での集団感染は相次いでいます。患者・利用者や職員で合計20人以上の感染者が判明した医療機関は5月9日時点でなんと23カ所、介護事業所・障害福祉施設も14カ所。【3】で述べた通り、一般市民というよりも、医療介護専門職や介護施設の入居者に対するきめ細やかな検査がより重要であることは明らかです。

 

繰り返しますが、医師たちが要求しているのは、必要な人たちに必要な検査が届くことであって、とにかく国民全員を検査せよ、というようなことではありません。

【5】日本はPCR検査が少ないから、感染者をちゃんと見つけられていないだけなのでは?

これもよくいわれることですが、そんなことはありません。


死亡数をみればそれがわかります。
なぜなら、たとえ感染者数を隠すことができても、死亡者数は隠すことはできないからです。

新型コロナに感染すると、一定の割合で重症化し、一定の割合で死亡者も出現します。
もし、たくさんの感染者が隠れているならば、その分、新型コロナによる死亡者が増加するはずですが、日本では新型コロナによる死亡者はわずかです。そして、死亡率も世界的にみても非常に低いです。

死亡者が少ないということは、感染者が少ないということ。もしこれ以上、感染者がいるのであれば、日本の少ない死亡率はさらに下がることになりますが、むしろそのほうが不自然ではないでしょうか。

これらのデータは、実際に日本の新型コロナ感染者が少ないことを示しています。

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【6】日本の治療成績がこんなにいいのはおかしい。死亡者をちゃんとカウントできていないのでは?

そういう疑問を投げかける人も少なくありません。
日本の死亡率が低い理由としては、救急医療が優秀であること、そして医療崩壊を回避できたことが大きいと思います。

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このグラフは、新型コロナで重症化し、人工呼吸器だけでは生命維持が困難で、ECMO(体外式膜型人工肺)を装着することになった患者さんたちの転帰です。志村けんさんもECMOをつけて亡くなられたので、ECMOがかなり厳しい治療だということはみなさんもご存じだと思いますが、日本では、ここまで重症化した人も、実は75%が回復・退院しているのです。

ちなみにニューヨーク州の治療成績(新型コロナ感染症で人工呼吸器が必要となったケースの死亡率)は約90%。65歳以上の高齢者に関しては97.2%でした。これは医療技術だけではなく、医療崩壊の影響も大きいと思いますが、日本の医療の成績が非常によいことがお分かりいただけると思います。

一方で、死者をちゃんとカウントできているのか? 誤嚥性肺炎として死亡診断された人の中に新型コロナの人がたくさん紛れているんじゃないのか? そんな疑問もよく聞かれます。

しかし、それもない、と言ってよさそうです。

そんな疑問に答えるための指標が「超過死亡」です。

超過死亡とは、本来、インフルエンザが流行したことによって、インフルエンザ・肺炎死亡がどの程度増加したかを示す推定値です。死亡者の数を週単位で集計、過去数年の死亡者数のトレンドよりも、不自然に死亡者が増加していれば、一般には、インフルエンザの流行によって増加した死亡者であると判断します。

5月7日のThe New York Timesは「失われた63000人の死亡者/新型コロナ感染症の真の犠牲者の追跡」と題する記事を報じました。世界の多くで超過死亡が不自然に増加しているというのです。

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このグラフは、ニューヨークの週ごとの死亡者数を示したもの。赤いラインで示されたのが2020年の死亡者数。青いラインで示された2017年から2019年の平均値と比較して、3月に入ってから急増しているのがわかります。ニューヨークではなんと約3倍(23,000人、297%)も死亡者が急増していました。この増加分が「超過死亡」、新型コロナに関連した死亡であると考えるのが自然です。

しかし、このうち新型コロナによる死亡として報告されているのは18,706人。残る4,300人も本当は新型コロナに関連した死亡なのではないか?というのです。

もちろん医療崩壊が起こった国では、心筋梗塞や脳出血など、普通なら助けられる病気で亡くなった方も多いはずです。しかし、新型コロナが原因で亡くなれた方が多く隠れている可能性もあります。

調査した17か国のうち、実に13か国で超過死亡が増加しており、うち新型コロナ死と報告されていない63000人も、もしかしたら新型コロナによる死亡なのではないかと推測されています。
つまり、死亡者数の過小評価が、世界レベルで起こっている可能性があるということです。
 

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それなら日本でも?

実は日本でも国立感染症研究所が21都市における「超過死亡」を毎週チェックしています。

もし、新型コロナがひそかに大流行し、それで亡くなっている人がたくさんいるのであれば、ニューヨークのように「超過死亡」が不自然に大きくなっているはずです。しかし、グラフをみればわかる通り、今年は超過死亡が増えていない、というよりも、むしろ例年よりも死亡者が少なくなっています。これはインフルエンザが流行していないことも関係しているかもしれませんが、少なくとも新型コロナによる死亡者を多数見逃している、ということはないと言えそうです。

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日本の死亡者が少ないのは、新型コロナ死の見逃しではない。

治療成績はとても良好だし、死亡者もきちんとカウントされている(超過死亡も増えていない)。そうはっきり言っていいと思います。

【7】抗体検査の結果、かなりの人が陽性だったと報告がある。実際に感染した人はもっと多いはず!

まずは、抗体検査とPCR検査の性質の違いをはっきりさせておきましょう。

抗体とは、一般に、感染の既往を示唆するものです。

抗体があるとは、感染したことがある、ということ。抗体保有者が多いということは、すでに感染し治癒した人が多いということになります。

また、待望されているワクチンも抗体をつくるための治療です。

確かに、一部の医療機関からは、受診者を対象にした抗体検査の結果、陽性者が予想以上に多くいた、という報告がされています。しかし、注意しなければならないのは、これは「病院受診者」、つまり一般市民よりも有病率が高い集団に対して実施された検査だということです。

特に高い陽性率(5.9%)が報告された東京のクリニックでは、新型コロナに感染した可能性の高い人たちを対象に検査が実施されています(中には実際にPCR検査が実施されていた人や、濃厚接触が疑われた医療専門職も含まれています)。この人たちの抗体保有率が高いからといって、一般市民に広く感染が拡がっているということはできないと思います。

ただし、もちろん実際の感染者はもっと多いという可能性はあります。

私も【1】では、実際に報告の20倍の感染者がいるという前提で有病率を計算しました。

一般市民における抗体保有率を知ることは、今後の感染拡大防止戦略を立案するためにも重要です。そのために、献血された血液の抗体検査※などが検討されています。もともと陽性率が高いと予想される対象に対する研究の結果で一喜一憂するよりも、信頼できる数字が出るのを待つべきでしょう。

一般には、抗体保有者が増えれば、感染拡大は自然に収束していきます。20%~70%の人が抗体を持てば流行は起こりにくくなるともいわれています。しかし、新型コロナの抗体のことはまだよくわかっていません。抗体ができれば再感染しないのか、その効果はどの程度続くのか、このあたりが早く明らかになることが重要だと思います。

※2020年5月15日追記:

日本赤十字社は2020年4月、複数の抗体検査キットの性能評価として、感染の多い東京と感染の少ない東北でそれぞれ500人分ずづ集めた献血の検体の抗体検査を実施。その結果、陽性になったは東京で500検体のうち最大3検体(0.6%)、東北で500検体のうち最大2検体(0.4%)。医療機関で患者や希望者を対象に実施した検査結果とは大きく解離しているのがわかります。厚労省は、それぞれのキットが示した結果が一致しなかったことや、比較のために行われた去年採血した献血からも2検体の陽性反応があったことなどから、キットの性能と「抗体」の陽性結果について正確に評価できないとしています。

政府は新型コロナウイルスの感染歴を調べる「抗体検査」について、6月をめどに住民を対象に1万件規模で実施する計画。感染者数が多い地域と少ない地域を含む、複数の都道府県で行うとのこと(毎日新聞より)。現時点では、抗体保有率についてはよくわからない、ただ、少なくともこれまで国内外で報告されてきた5%~20%というのは、日本においてはあり得ないのは間違いなさそうです。

最後に

「未知」のウイルスと言われていた新型コロナ。

もちろんまだまだわからないこともありますが、多くのことが明らかになってきました。

とにかく不安を解消しようともがきたくなる気持ちはよくわかります。

だけど、感情的な判断や行動は、不安や恐怖、焦燥を増幅させ、時に取り返しのつかない不利益をもたらすこともあります。

不安に対するもっとも効果的な薬は正しい情報です。感情的な発信に振り回されないこと、信頼できる情報源をきちんと見極めることが大切です。少なくとも大規模にPCR検査が実施できれば問題が解決する、というようなシンプルな問題ではありません。PCR検査はあくまで病気を診断するための1つの手段に過ぎないのです。

そして、新型コロナに立ち向かうための資源(時間・医療者・医療資材・予算)は有限です。
日々蓄積されつつある新型コロナに対する新しい知識を活用すれば、もっとスマートにこのウイルスと戦えるはずです。

医師が必要と判断した人に迅速にPCR検査が実施できることは、治療方針を決定する上でも非常に重要です。そして、医療介護専門職、介護施設の入居者などに定期的にPCR検査を実施することで、感染拡大を抑制できることもわかっています。そのためにもPCR検査の対応能力を高めておくということに異論はありませんし、その体制は整いつつあります。

日本は感染拡大を抑え込みつつあります。

そして、これからコロナとの長い共存の時間が始まります。

世界の取り組みを参考にしながら、日本の医療提供体制や価値観にフィットする解決策を冷静に議論していくべきだと思います。

私たちも在宅医療の現場で、新型コロナウイルスの予防と療養支援に全力で取り組み、現場から課題を発信し続けていきたいと思います。
 

医療法人社団悠翔会

佐々木 淳

医療法人社団悠翔会