ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生部門より、2020年4月21日、施設での感染管理の方向性についてのリリースがありました。
施設での感染管理が施設単体で行うことは難しく、日本においては連携医療機関である在宅医療機関および後方支援病院、そして行政や、その向こう側にある監督官庁との密な連携が欠かせないこと、それに対して事前準備をしておくことの重要性を改めて実感しました。
なお、このガイダンスでは、感染した施設患者を入院させるという前提で作成されていません。施設内の感染者は施設内で隔離すること、具体的なゾーニングやコホーティング、施設を超えた入居者の移動についても言及されています。
日本でも千葉や北海道などで老健施設を中心に施設内アウトブレイク、施設内隔離(施設ごと隔離)が行われつつあります。対岸の火事ではなく、当事者意識をもってシミュレーションしておくことが非常に重要であると考えます。
推奨①:介護施設とケアチームの状況認識を向上させる
介護施設へのCOVID-19の感染持ち込みと感染拡大を防ぐために、公的なガイドラインとリソース(人材や感染防御資材など)に対する意識の向上が必要である。そのためにケア支援チームは、
•介護施設に対する既存のガイドラインの更新にキャッチアップする。関連する公的機関や専門家組織のウェブサイトを定期的にチェックする。
•自施設における状況を日々確認する(入居者やスタッフへの感染(疑い)状況)、ベッドの稼働状況や個人用感染防御資材(PPE)、人材確保の状況)。施設の運営状況が最新のガイドラインに合致しているかどうかも確認し、施設内で情報共有する。
•介護施設のスタッフ間で毎週(または必要な頻度で)オンライン会議を開催し、上記調査結果や介護施設に対する新しいガイドラインについて共有し、今後の方針を検討する。電話会議には施設長や医療担当者・看護師のように、施設運営に直接かかわるメンバーが参加する。
○この電話会議のファシリテータは、自治体や上部組織の会議にも参加する必要がある。そこで、またファシリテータは会議の内容を施設内で共有し、施設が自治体や上部組織からの支援に確実につながるようにする。
•介護現場と病院のスムースな連携のために、ケア支援チーム、介護施設、地域の病院、および擁護団体の関係者による定期的(毎週の)会議を行う。
推奨②:感染防止と感染制御を確実にするために介護施設をサポートする
介護施設内へのCOVID-19の感染持ち込みと感染拡大を防ぐには、IPC(適切な感染予防と制御)対策が最も重要である。スタッフがIPC対策を確実に実施できるようにするために、ケア支援チームは次のことを行う。
•定期的なオンライン会議においてIPCガイドラインを確認する。
•手指衛生と身体的距離を維持することの重要性を介護施設内で共有するための教育研修計画を作成する。わかりやすいポスターや文書などを活用する。Society for Post-Acute and Long-term Medicineのウェブサイトを参照。
•IPCのトレーニング(PPEの選択、着脱、手指衛生、清掃と消毒を含む)の修了者を特定し、必要に応じて追加のIPCトレーニングができるよう、施設に配置する。
•介護施設が適切なIPCができるよう必要な資材(PPE、消毒剤など)の調達計画をたてる。調達計画には、公的機関(自治体)の資材保有状況の確認と、支援要請の手順も含めること。
•介護施設が感染防御資材を優先的に確保できるよう政策提言を行うこと。
推奨③:適切な人員配置を維持しながら、介護施設を支援する。
介護施設には、入居者のニーズに応えるための適切な人員配置が存在する。これを維持するために、ケア支援チームは次のことを行う必要がある。
•ダッシュボードデータをモニタリングし、人員不足が発生している施設を特定する。
•介護施設の人員確保戦略の立案を支援する。特に数日~月の単位で病気によるスタッフの欠勤が増える可能性がある。これらの戦略を立案するために、地域のボランティア組織や地域の病院との連携体制を確立する。
•遠隔医療を導入し、入居者の不急の病院受診(通院介助)を減らす。(CMSガイダンス参照)
※日本においては連携医療機関との相談が必要
推奨④:介護施設の入居者とスタッフにスクリーニングと検査を行う。
COVID-19の感染持ち込みと感染拡大を防ぐために、入居者の感染症状のスクリーニングおよび有症状者・濃厚接触者に対する検査は、介護施設にとって最優先事項。ケア支援チームは入居者に対し、次のことを行う。
•呼吸器症状のある入居者の評価と管理、およびCOVID-19の患者からの検体の収集と処理について、ガイドライン通りに実施できるよう支援する。感染症状のある入居者に対しては、スタンダードプリコーションおよび、接触・飛沫感染の予防措置を直ちに行う。
•COVID-19が疑われる入居者への対応ガイドラインの作成を支援する。これには、入居者および濃厚接触したスタッフの検査について、施設内で実装する必要があるIPC対策、いつ/どのように保健所に報告するかについても記載する。
•介護施設内での感染拡大を防ぐため、迅速な診断と感染経路の特定が重要である。保健所や病院と連携し、入居者がCOVID-19検査に優先的にアクセスできるルートを確保する。
•COVID-19を疑う症状のある、または検査で陽性となった入居者やスタッフが出た場合には、介護施設内での感染拡大状況を評価するために広範な検査の実施が推奨される。
•介護施設でアウトブレイク(大規模感染)が発生した場合は、利用可能な検査機関、統轄対応組織(日本では都道府県・DMATなど?)につなぐ。地域によっては、施設内において迅速な検査とトリアージが支援できるチームがあるかもしれない。(例えばジョンズホプキンスのGo Team)
COVID-19の感染持ち込みと感染拡大を防ぐために、スタッフの感染症状のスクリーニングおよび有症状者・濃厚接触者に対する検査も、介護施設にとって最優先事項。ケア支援チームは入居者に対し、次のことを行う。
•スタッフの健康チェックに関する最新のガイドラインを閲覧し、それに従う。感染症状のあるスタッフはサージカルマスクを装着し、ただちに帰宅させる。
•症状のあるスタッフを評価・経過観察するための仕組みづくりを支援し、業務に復帰するタイミングを明確にする。
•介護施設内での感染拡大を防ぐため、迅速な診断と感染経路の特定が重要である。保健所や病院と連携し、入居者がCOVID-19検査に優先的にアクセスできるルートを確保する。
•介護施設グループにおいては、施設間のスタッフの移動を最小限に抑え、COVID-19が広がる機会を減らす。これは、スタッフが無症状であっても、その施設で感染者が出ている場合には特に重要。
•全てのスタッフに対し(感染を持ち込む危険を増やす)他の施設または地域で働いているかを確認する。
•COVID-19を疑う症状のある、または検査で陽性となった入居者やスタッフが出た場合には、介護施設内での感染拡大状況を評価するために広範な検査の実施が推奨される。
推奨⑤ 病気を隔離し、濃厚接触者を検疫する。
介護施設の入居者が感染症状を発症したら、感染拡大を防ぐために、直ちに隔離しなければならない。病気の患者や濃厚接触した入居者の適切な隔離を確実に行うために、ケア支援チームは次のことを行う。
•施設におけるCOVID-19の感染予防と制御に関するガイドラインを確認し、それに従う。
•介護施設内の感染者隔離のための内部計画と手順(必要に応じて更新)を確認する。共有空間を個室に変換するなど、各施設の隔離可能なキャパシティ(空間)を特定し、感染した入居者を隔離ユニット・隔離棟に移動させる。
•可能であれば、感染者と非感染者をそれぞれ別の施設に移動・集約する。
※CMSは介護施設がコホート目的で居住者を移動または退所させる移動シナリオを発行している。
推奨⑥ スタッフおよび入居者への濃厚接触リスクを減らす。
介護施設は、入居者への感染を防ぐために、濃厚接触の機会を減らすように努める。そのためには、ケア支援チームは次のことを行う。
•ガイドラインに従って、介護施設への訪問者を制限する。
○面会制限に伴う入居者の人間関係維持のため、FacetimeまたはZoomなどを用いた面会手段を確保できるよう支援する。
•すべての介護施設において、COVID-19感染者専門対応チーム(指定されたエリアのCOVID-19陽性入居者、またはCOVID-19陽性者専用施設に対応)を作る。このチームには、医療スタッフとサポートスタッフ(環境、食事など)を含める。この選抜チームに対しては、IPC対策教育に特に注力する。
•すべての介護施設において、直接介護に関わらない事務系職員などの人数を制限する。
○上記スタッフに対する在宅勤務の導入を支援する。
○介護施設への物品や食品の納入頻度を最小化できるよう支援する。
•すべての介護施設において、ダイニングでの食事を含むグループ活動を自粛する。
○グループアクティビティの代替手段を確保する。これ認知症または認知機能障害のある人々の動揺やせん妄の発生を減らすために特に重要である。
•専門職による定期的な健康管理のために、介護施設に対する遠隔医療の導入を勧める。これにより不必要な受診や医療提供者の訪問を制限する。
○必要な医療の予定や救急部への訪問のために出発するときに、遠隔医療を介して遅延したり完了したりできないPPEを提供する施設を支援します。
•介護施設と地域の救命救急センターの連携手段を確立しておく。搬送時には施設より事前連絡を行い、受け入れ準備をしてもらう。
•COVID-19の発生による入居者のメンタルヘルスへの影響を監視および軽減するための計画を立案する。いくつかの事例が学会のウェブサイトに提示されている。
施設における感染管理に対する日本の課題
悠翔会では、新型コロナウイルス在宅療養支援ガイドを作成し、新型コロナ対策に取り組んできました。
しかし、施設における連携については、さらに一歩踏み込んで考える必要性を感じました。
特に翻訳をしながら感じた課題は
①IPC(適切な感染予防と制御)対策の一丁目一番地であるはずの感染防御に対する知識や適切なPPEの取扱い(適応や着脱)についてのスキルが、特に現場の介護職に充分に周知・習得されていない。介護領域については公的なIPCの研修プログラムがなく、当然、各施設に一人ずつ修了者がいる、という状況は作れていない。
②おそらく連携医療機関がそれを担うことになるが、その取り組みは充分ではない。
③必要なPPEが準備できていない施設が多い。
④必要に応じてスタッフや入居者に対する広範な検査(PCR)が実施できる体制が整えられてない。
⑤地域単位での地域連携(病院と施設、地域のさまざまなヘルスケアセクター)の連携が不十分。連携のための定例の場が確保されているところも少ない。
⑥施設内でアウトブレイクが発生した場合の支援体制・指揮命令系統が明確でない。
⑦施設内でアウトブレイクが発生することを前提としたシミュレーションがなされていない。
施設単体では取り組むことのできないこれらの事案に対し、どこがイニシアチブをとって進めていくのか、地域ごとに検討する場をつくることからはじめなければならないと感じました。
もし、誰も動かないのであれば、連携医療機関である在宅医療がまず一方踏み出すべきなのかもしれません。