いまなぜ「地域共生社会」なのか?
日本にはかつて、地域の相互扶助や家族同士の助け合いなど、生活の様々な場面において、ある程度の「支え合いの機能」が存在していました。
社会保障制度は、社会の変化に応じて、地域や家庭が果たしてきた役割の一部を代替してきました。高齢者、障害者、子どもなどの対象者ごとに、また生活に必要な機能ごとに、公的支援制度の整備と公的支援の充実が図られてきています。
しかし、ご存知の通り、日本では超高齢化が進行、少子化・多死化により人口も減少しつつあります。そして同時に、地域・家庭・職場という生活領域における支え合いの基盤も弱まってきています。老々世帯、独居世帯のみならず、地域から孤立し、必要な社会的資源につながっていない人は少なくありません。
人と人とのつながりが失われることで、私たちの生活の質は低下し、そして生命のリスクは高まります。自立とは、誰にも頼らずに生活できることではなく、頼れる先をたくさん持っていることだ、と指摘する専門家もいます。
心筋梗塞後の高齢者の6か月後の死亡率。
75歳以上の高齢者においては、友人が2人以上いると、心筋梗塞後6か月後の死亡率は26%だが、友人が一人もいないと死亡率は69%まで上昇する。
Ann Intern Med. 1992 Dec 15;117(12):1003-9.
Emotional support and survival after myocardial infarction. A prospective, population-based study of the elderly.
つながりを再構築することで、人生における様々な困難に直面した場合でも、誰もが役割を持ち、お互いが配慮し存在を認め合い、そして時に支え合うことで、孤立せずにその人らしい生活を送ることができるような社会としていくことが求められています。
また、人口減少の波は、多くの地域で社会経済の担い手の減少を招き、それを背景に、空き家やシャッター商店街、耕作放棄地など、様々な課題が顕在化しています。
人口減少、地域経済の衰退、そしてコミュニティ存続への危機感。これを乗り越えるためには、民間・公共問わず、さまざまなセクターが領域を超えてつながり、地域社会全体を支えていくことが、これまでにも増して重要となっています。
らに、対象者別・機能別に整備された公的支援の限界も顕在化してきました。様々な課題が絡み合って複雑化し、個人や世帯単位で複数分野の課題を抱え、複合的な支援を必要とするケース、既存の支援制度では対応が困難なケースが増加してきています。
「地域共生社会」とは、このような社会構造や暮らしの変化に応じて、制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を目指すというものです。
「地域共生社会」の実現に向けた国の取り組み
1.地域課題の解決力の強化
身近な地域で、住民が世代や背景を超えてつながり、相互に役割を持ち、「支え手」「受け手」という関係を超えて支え合う取り組みを支援する。これにより、すべての国民が、生活の楽しみや生きがいを見出し、様々な困難を抱えた場合でも、社会から孤立せず、安心してその人らしい生活を送ることができる社会を実現する。
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国は、複合化した課題を抱える個人や世帯に対する支援や「制度の狭間」の問題など、既存の制度による解決が困難な課題の解決を図るため、地域住民による支え合いと公的支援が連動した包括的な支援体制の構築を目指し、社会福祉法を改正。(平成29年6月2日公布。2018年(平成30年)4月1日施行)
2.「地域丸ごとのつながり」の強化
耕作放棄地の再生や森林などの環境の保全、空き家の利活用、商店街の活性化など、地域社会が抱える様々な課題は、高齢者や障害者、生活困窮者などの就労や社会参加の機会を提供する資源でもある。社会・経済活動の基盤でもある地域において、社会保障・産業などの領域を超えてつながり、地域の多様なニーズに応えると同時に、資源の有効活用や活性化を実現するという「循環」を生み出す。これにより、人々の暮らしと地域社会の双方を支えていく。
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国は「地域丸ごとのつながり」の具体的な取り組みを支援するため、新たに「保健福祉分野における民間活力を活用した社会的事業の開発・普及のための環境整備事業」を実施。地域経済の活性化と参加者の健康増進、自立支援などを同時に実現することを目指す。
加えて、市町村や社会福祉施設等の事業者が地域づくりや「こども食堂」などの地域活動の取り組みを支援。
3.地域を基盤とする包括的支援の強化
地域包括ケアの理念を高齢者のみならず、生活上の困難を抱える障害者や子どもなどへ広げる。誰もが地域において自立した生活を送ることができるよう、地域住民による支え合いと公的支援を連動させ、地域を『丸ごと』支える包括的な支援体制を構築し、切れ目のない支援を実現する。
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国は、高齢者と障害児者が同一の事業所でサービスを受けやすくするため、介護保険と障害福祉両方の制度に新たに共生型サービスが位置づけた。これにより、介護保険又は障害福祉のいずれかの指定を受けている事業所が、もう一方の制度における指定も受けやすくなった。
4.専門人材の機能強化・最大活用
地域の多様なニーズを把握し、住民とともに地域づくりに取り組む。地域生活の中で本人に寄り添った支援をする。専門性の確保に配慮しつつ、養成課程のあり方を見直すことで、保健医療福祉の各資格を通じた基礎的な知識や素養を身につけた専門人材を養成する。
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厚生労働科学特別研究において、保健医療福祉の「共通基礎課程」のあり方について検討中。
当面の措置として、福祉系国家資格所有者(介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士)が保育士試験を受験する際に全9科目のうち3科目(社会福祉、児童家庭福祉、社会的養護)の受験を免除、介護福祉士養成施設の卒業者が指定保育士養成施設で学ぶ場合に必修科目のうち6科目(10単位)の履修を免除。
大切なのは、私たち自身のアクション
国はさまざまな施策を通じて「地域共生社会」の具体的な取り組みを促進しようとしています。その担い手は、行政機関や社会福祉法人などに留まらず、民間企業や住民主体など非常に多様なパートナーが想定されています。その対象は住民であればだれでも。そのフィールドは、病院や介護施設ではなく、空き家や空き商店、耕作放棄地など多様な場が想定されています。
重要なのは「誰かにやってもらう」のではなく、「自分たちもやれる・やりたくなる」ものであること。そして、この取り組みを通じて、すべての人の「幸せ」が実現すること。
そのためには、この取り組みの中で誰もが役割と目的を持ち、支える・支えられるという関係性が固定しないことが重要なのだと思います。
今回の在宅医療カレッジ特別企画シンポジウム2018では、9人のパネリストによるプレゼンテーションおよびディスカッションを予定しています。
それぞれ政策や研究、ジャーナリズム、そして実践の現場で活躍するオピニオンリーダーたち。
①日本が直面する社会課題、②日本が取るべき今後の方向性、③地域共生社会の実践モデル、の3つのサブテーマにわけて議論したいと思います。もちろん会場のみなさんも参加してください。
それぞれのパネリストのプレゼンテーマと、これまでの活動に関するリンクをご紹介します。
サブテーマ① 日本が直面する社会課題
●西村周三先生(人口構造の変化・社会保障財政など)
一橋大学社会科学高等研究院 医療政策経済研究センター
地域包括ケアの深化と地域共生社会に向けた移行に関する研究
医療・介護が産業として成長するための条件
●浅川澄一先生(日本の高齢者・認知症ケアの現状と課題)
ダイヤモンドオンライン「医療介護大転換」
●大熊由紀子先生(日本の医療および社会的弱者の現状と課題)
サブテーマ② 日本の取るべき今後の方向性
●唐澤 剛先生(地域包括ケアシステムの深化、地方創生など)
まち・ひと・しごと創生総合戦略(2017改訂版)について
「地域包括ケアしか選べない」第19回日本在宅医学会大会特別講演
●藤岡雅美先生(経産省時代に発信された若手官僚の問題意識と、経産・厚労の両方の立場から考える今後の方向性)
不安な個人・立ちすくむ国家
文春オンライン「立ちすくむ国家」経産若手官僚の警鐘
サブテーマ③ 地域共生社会の実践モデル
●井階友貴先生(住民・行政とともに作り上げる地域医療と街づくりの広がり)
福井大学医学部地域プライマリケア講座
まちづくり系医師
地方創生×地域力創造×地域包括ケア 健康のまちづくり・たかはまモデル
医療危機を乗り越える「地域で医師を育てる」試み
Society and Health Lab
働こう!地域ケアの専門部署「コミュニティケアセンター」と「コミュニティケアコンソーシアム」
ソーシャル・キャピタル×CBPR「けっこう健康!高浜☆わいわいカフェ(健高カフェ)」
まちの気持ちが分かるまちの救世主、育てます。「健康のまちづくりアカデミー」
健康に詳しい地域のつなぎ手、育てます。高浜町「健康マイスター」養成塾
“条件・負担なし”“利点・楽しさあり”の、市区町村のつながりを。「健康のまちづくり友好都市連盟」
拡げよう!市民―行政―医療―介護 協働創出プロジェクト「コラボ☆ラボ」
応援しよう!地域医療住民有志団体「たかはま地域☆医療サポーターの会」
読もう!医学書院『病院』隔月連載「赤ふん坊やの 地域ケア最前線!」
泊まって学ぼう!「たかはま海の親プロジェクト」
夏だ!海だ!「海と地域医療体験ツアーin高浜」
週刊医学界新聞記事
日本医療再生の懸賞論文
●下河原忠道先生(地域における高齢者住宅のあり方と認知症への理解の促進)
実践者たちの取り組みを通じて、「地域共生社会」を具体的にイメージっできるようになっていただければ幸いです。
それでは12月15日、東京国際フォーラムでお会いしましょう!
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